一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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子房内液のミネラル比率

質問者:   一般   azzurro
登録番号4782   登録日:2020-07-01
藤田紘一郎『水と体の健康学』「1-02生命が誕生した海と生物の体液」に、生命が誕生した場所が海であり、そのため人間の胎児が、海とミネラル比率がほとんど同じ羊水の中で成長することを挙げたうえで、「鳥や昆虫などの卵の中の体液も、植物が実を結ぶ子房の中の液も、やはり海水に似たミネラル比率である」と書かれていました。
羊水と海水のミネラル比率が似ていることは知っていたのですが、植物でも似たようなメカニズムがあることを知って、もっと知りたいと思うようになりました。
このことについてもっと詳しく書かれている文章か本を知りたいのですが、ここは植物関係のサイトなので、子房内液のミネラル比率について書かれているものをご紹介願えないでしょうか。
azzurro様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問の中で引用されている本は寡聞にして存じません。そこに「植物が実を結ぶ子房の中の液も、やはり海水に似たミネラル比率である」と書かれているとのことですが、植物学的には少々曖昧な記述かと思います。著者はそのような記載のある文献を読まれたのだと思いますが、残念ながら調べても分かりませんでした。「植物が実を結ぶ子房」というのは植物学的に何を指しているのでしょうか。果実のことだとすれば、「子房の中の液」というのは何を指すのか分かりません。「子房」とは雌しべの下部にあって、そこでは将来種子となる胚珠が作られます。胚珠の中では受精後最終的に胚が形成されます。子房・胚珠・胚の構造についてはネット上に多くの図説がありますのでご覧になってください。
胚は胚乳という胚が成長を始める時(発芽)に供給する有機栄養分を貯蔵している組織に取り囲まれていますが、多くの場合この栄養分は胚の子葉などに移されて、胚乳は萎縮しています。胚乳が液体ではありませんが、coconut milkのような場合は胚乳を構成する細胞に細胞壁に仕切りがありませんので、液状をしています。他方、子房自体は果実に発達します。したがって液状ではありません。「植物が実を結ぶ子房の中の液」という表現は、子房を哺乳動物の子宮に対応させ、種子胚を子宮の中の胎児に対応させ、羊水に対応する子房内液を想定したのではないでしょうか。そうだとすると適切な例えではありません。「子房内液」というものに相当するものはないか調べてみましたが、そういうものは見つかりませんでした。したがって、そのことについて書かれている情報は、引用された本に頼るしかないと思います。ちなみにcoconut milkにもミネラルは含まれていますが、海水の組成率とは似ていませんでした。付け加えますとソテツ、イチョウ、マツなどの裸子植物には子房がありません、胚珠がむき出しになっているからです。



勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-07-08
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