質問者:
教員
バロメッツ
登録番号4784
登録日:2020-07-02
小学校で理科を担当しています。みんなのひろば
炭酸水に水没させた種子の発芽
「種子の発芽に空気は必要であるか」をたしかめる実験をする際、水没させた種子が発芽してしまいます。種子は緑豆を使用しています。
水中の溶存酸素を減らす方策として窒素での置換を考えましたが、小学校の設備ではできないため、二酸化炭素が溶けている炭酸水を使用する予定です。酸素を減らして発芽を抑える方策として、これは妥当でしょうか?
(種子を水没させ、容器の蓋をしっかり閉じ、二酸化炭素の気化と空気中の酸素が溶けるのを防ぎます)。
二酸化炭素は植物の光合成に使われるため植物の成長を促進するという記事を読みました(登録番号3563や園芸関係ウェブログなど)が、今回扱うのは種子の発芽です。
バロメッツ様
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
この方法で種子を水没させても、次の理由から緑豆の発芽を抑えるのは困難だと思われます:水に酸素が溶けている、種を覆う水層の厚さ(深さ)にもよるが、空気中の酸素が水に溶けて拡散(分子の熱運動)により種子に到達して種子の発芽に使われる。
嫌気的環境にするには、中学校以上の実験室では、ボンベに入っているチッソまたはアルゴンガスで気相を置換するのが一般的であり、また簡単でしょう。質問の趣旨は、小学校の理科室にそのようなガスが利用困難な場合は何か別の方法で対応しようというものです。
しかし、質問者が提案されている「二酸化炭素を溶かした水」では不十分だと考えます。工場などでは、水を使えない時の火災の消火に二酸化炭素の注入が利用されることがあります。これは燃えている物質が燃焼によって急速に酸素を消費し、二酸化炭素により新たな空気の供給も断たれているので、酸素不足となって燃焼が持続できなくなり、条件によっては有効に消火に利用できます。しかし、発芽実験では、二酸化炭素が溶けた水には酸素も溶けており、空気中の酸素が徐々に水に溶けて種子に供給されるため、酸素をそれほど多量に呼吸に消費しない場合は、質問者が期待しているような効果を得るのは困難だと思われます。
私が提案する実験計画案:実際にうまくいくかどうか検証ずみのものではありませんが、試してみる価値はあると思います(実験を進めながら必要に応じて適宜修正してください)。
基本方針:
A)透明プラスチックバッグを用い、中にある空気中の酸素を脱酸素剤(例:エージレス等)を用いて除去する。鉄は酸素と反応して酸化鉄になるので酸素が除去されるが、この反応には気体の水蒸気が必要である。(なお、使い捨てカイロは鉄粉が触媒となって水蒸気と反応しながら木炭が酸化されることにより発熱するが、この時酸素を吸収するので、嫌気実験に利用できるかもしれない)。実際に、発芽を妨げる程度にまで酸素濃度を下げてくれるかどうかは実験により確かめてください。(植物種子の中では嫌気条件下でも発芽するものがなくはありませんが、緑豆はかなり酸素を必要とします)
B)容器には透明なスチロール製カップを利用する。高さはあまり高くないものが適当。
C)カップに水を含んだ脱脂綿をいれ、その上に種子を置く。
D)カップと脱酸素剤(カップの外側)を透明なポリ袋に入れ、バッグをしっかり閉じる。なお、空気は体積比で約21%の酸素を含み、脱酸素剤により気体の体積が減少するので、体積に余裕をもって閉じる。
結果の予想:
閉じたバッグは、脱酸素剤の働きによりしぼんでくるはずである。メーカーの説明によれば、適当な条件下では24時間以内に、酸素濃度は1%以下に低下するという。空気に含まれ酸素は、体積比で約21%であり、十分に吸収できるサイズ/量の脱酸素剤を選ぶ。バッグの体積が約20%しぼめば、嫌気実験がうまくいっていると推定される。脱酸素剤の袋を2つに増やしてもしぼみかたが同程度なら、脱酸素剤は量的に十分だと判断される。なお、ポリエチレンフィルムは酸素透過性が低くはないので、極端に薄いものは空気中の酸素の拡散が無視できない可能性があるので、避ける。ポリ塩化ビニール製のバッグは酸素透過性が低いので(ポリ塩化ビニリデン製はさらに低い)、もしも、嫌気条件下でもポリエチレンバッグ内で発芽と成長が盛んにおこるようなら、バッグの素材を変えてみることも一策かもしれない。
結論:身近にあるものを使って実験をはじめ、結果を見ながら、必要に応じて改良を加えてください。
以上
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
この方法で種子を水没させても、次の理由から緑豆の発芽を抑えるのは困難だと思われます:水に酸素が溶けている、種を覆う水層の厚さ(深さ)にもよるが、空気中の酸素が水に溶けて拡散(分子の熱運動)により種子に到達して種子の発芽に使われる。
嫌気的環境にするには、中学校以上の実験室では、ボンベに入っているチッソまたはアルゴンガスで気相を置換するのが一般的であり、また簡単でしょう。質問の趣旨は、小学校の理科室にそのようなガスが利用困難な場合は何か別の方法で対応しようというものです。
しかし、質問者が提案されている「二酸化炭素を溶かした水」では不十分だと考えます。工場などでは、水を使えない時の火災の消火に二酸化炭素の注入が利用されることがあります。これは燃えている物質が燃焼によって急速に酸素を消費し、二酸化炭素により新たな空気の供給も断たれているので、酸素不足となって燃焼が持続できなくなり、条件によっては有効に消火に利用できます。しかし、発芽実験では、二酸化炭素が溶けた水には酸素も溶けており、空気中の酸素が徐々に水に溶けて種子に供給されるため、酸素をそれほど多量に呼吸に消費しない場合は、質問者が期待しているような効果を得るのは困難だと思われます。
私が提案する実験計画案:実際にうまくいくかどうか検証ずみのものではありませんが、試してみる価値はあると思います(実験を進めながら必要に応じて適宜修正してください)。
基本方針:
A)透明プラスチックバッグを用い、中にある空気中の酸素を脱酸素剤(例:エージレス等)を用いて除去する。鉄は酸素と反応して酸化鉄になるので酸素が除去されるが、この反応には気体の水蒸気が必要である。(なお、使い捨てカイロは鉄粉が触媒となって水蒸気と反応しながら木炭が酸化されることにより発熱するが、この時酸素を吸収するので、嫌気実験に利用できるかもしれない)。実際に、発芽を妨げる程度にまで酸素濃度を下げてくれるかどうかは実験により確かめてください。(植物種子の中では嫌気条件下でも発芽するものがなくはありませんが、緑豆はかなり酸素を必要とします)
B)容器には透明なスチロール製カップを利用する。高さはあまり高くないものが適当。
C)カップに水を含んだ脱脂綿をいれ、その上に種子を置く。
D)カップと脱酸素剤(カップの外側)を透明なポリ袋に入れ、バッグをしっかり閉じる。なお、空気は体積比で約21%の酸素を含み、脱酸素剤により気体の体積が減少するので、体積に余裕をもって閉じる。
結果の予想:
閉じたバッグは、脱酸素剤の働きによりしぼんでくるはずである。メーカーの説明によれば、適当な条件下では24時間以内に、酸素濃度は1%以下に低下するという。空気に含まれ酸素は、体積比で約21%であり、十分に吸収できるサイズ/量の脱酸素剤を選ぶ。バッグの体積が約20%しぼめば、嫌気実験がうまくいっていると推定される。脱酸素剤の袋を2つに増やしてもしぼみかたが同程度なら、脱酸素剤は量的に十分だと判断される。なお、ポリエチレンフィルムは酸素透過性が低くはないので、極端に薄いものは空気中の酸素の拡散が無視できない可能性があるので、避ける。ポリ塩化ビニール製のバッグは酸素透過性が低いので(ポリ塩化ビニリデン製はさらに低い)、もしも、嫌気条件下でもポリエチレンバッグ内で発芽と成長が盛んにおこるようなら、バッグの素材を変えてみることも一策かもしれない。
結論:身近にあるものを使って実験をはじめ、結果を見ながら、必要に応じて改良を加えてください。
以上
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-07-11