一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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一年草雑草種子のこぼれ種の発芽について

質問者:   公務員   あきら
登録番号4797   登録日:2020-07-12
趣味で雑草大根等(ハマダイコン等)や伝統大根の研究をしています。
私の住む鹿児島県大隅半島では、春先に雑草化したダイコン属の花が咲き乱れる箇所が沢山あります。これは、私が調べた結果、ハマダイコンではなく、畜産飼料種子に混入したセイヨウノダイコンが雑草化したものと思われます(遺伝子等のレベルで確認はしていません)。
前置きがながくなりましたが。
このような雑草ダイコンの種子は、自然条件では、秋に発芽し、翌年、春開花し、梅雨前に結実します。
ところが、春先に人為的に、雑草ダイコンの鞘を採り、脱穀し、得られた種子を播種し(水分を与える)すると、速やかに発芽します。
試してはいませんが、他のアブラナ科の雑草も同様と思われます。
私の全くの想像ですが、春さきに開花するアブラナ科雑草(ダイコンイ属に限らず)の発芽生育生態は、「鞘等に含まれる発芽抑制物質が梅雨明けごろまでに作用し、湿度を保ちながら高温になり発芽が抑制され休眠に似た状態となり、時間経過とともに休眠期を経過した状態で秋の発芽適温になり発芽、冬の低温により春化し抽苔する」と思いました。
以上のような考えでおおまかには正しいでしょうか?
かりに、抽苔した茎葉や生鞘を冷蔵保管して、秋の播種時期に土壌混和等すれば発芽抑制する、といった研究報告があるのでしょうか?(自分で確認してみたらいいといえばそれまでですが、、)。
ご教授ください。
あきら様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。野生植物の種子は自然の状態では完熟して播種しても、すぐ発芽しないのが普通です。また、1個体に形成された全ての種子が同時に発芽することもありません。これは野生種子の共通した特徴で、生育・繁殖する自然環境の諸条件に対応して内性的に備わった性質です。つまり、一旦発芽してしまうと、環境の激変で生育が不利になっても移動できませんので、そのような変化が通常起きないような環境が整うまでは「休眠」します。また、一斉に発芽してして、環境の激変で芽生えが死滅してしまうのは、繁殖にとって不利です。したっがって、発芽の時期がバラバラになっていると考えられます。種子の休眠は物理的・生理的な様々な要因でおきます「休眠」については関連する質問・回答がたくさん本コーナーに登録されていますので、「休眠」で検索して調べてください。ここでは詳しい説明は省略させていただきます。
休眠をもたらす主要な要因として種子胚の成長開始(発芽)を抑制する植物ホルモン、アブシシン酸(ABA)があります。ABAは胚自体に含まれることもあるし、種皮や果肉に含まれることもあります。マメ科の莢(seed pod)やアブラナ科の長角果(silique)の莢などにも存在します。種子自体にこのような阻害物質が含まれる場合は、例えば、低温要求性種子では自然状態で土壌の中で吸水してから、冬の低温の時期を経る間に徐々に阻害物質は減少していきます。また、ジベレリンなどの成長を促進するホルモンが増加していく場合もあります。果肉とか莢に存在する場合は土壌中でそれらが分解すると胚の休眠は終わることになります。果肉や種皮に阻害物質がある場合は、それらを人為的に取り除けば発芽が可能です。低温要求性種子も人為的に冷蔵庫などで低温を経験させれば発芽できます。
野生の大根の場合についての特定の研究は見つかりませんでしたが、完熟乾燥種子は秋に土壌中に播けば(吸水させれば)発芽するのですから、低温要求性種子ではないですね。
莢の中に入っている種子や果実の中の種子は完熟してもその場所では発芽しませんが、ご質問にあるように取り出して吸水させると、低温処理が必要とかでない場合は発芽を始めます。これは上述のように、莢や果実にに含まれる阻害物質(ABA)が出来上がったばかりの種子胚の成長を抑制しているからです。胎生発芽(vivipary)という現象があります。例えばトウモロコシにコーンの上で発芽してしまう種類がありますが、これはABA合成が十分できない突然変異です。種子形成後時間が経つと莢も種子も乾燥が進行していき、種子は吸水の機会があるまでは発芽しません。休眠をする種子は、種子形成の終わりに種子ので中のABAが増加していることが知られています。
「抽苔した茎葉や生鞘を冷蔵保管して、秋の播種時期に土壌混和等すれば発芽抑制するか」という質問ですが、そういう実験報告はあるかどうか分かりません。植物の組織/器官にはほとんどの場合ABAを主とする成長阻害物質が含まれていますので、それをすり潰すなどしてその中で種子を発芽させれば、抑制現象が見られる場合もあるでしょう。しかし、土壌混和すると、土壌微生物の働きなどで分解が進み、そういう効果が見られるかどうかはやってみなければ分かりません。野生ダイコンの生の茎葉や種子莢などをすり潰して、ペトリ皿の中などで発芽試験をやってみられたらどうでしょうか。抽出分画操作で出来るようでしたら、メタノールでABA画分が得られます。抽出方法は関連の論文を参考になさってください。


勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-07-20
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