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水中植物とペクチンについて

質問者:   会社員   T
登録番号4798   登録日:2020-07-12
以前花の感触について質問した者です。
細胞間をペクチンが接着していることを知り、その後ペクチンについて興味を持ち調べてみました。
すると、ペクチンの生合成に関わる遺伝子は、植物が水中から陸上に進出する際に獲得したものであると知りました。
そこで疑問に思ったのですが、水中植物にはペクチンが全く無いのでしょうか。
また、そうであった場合、どのようにして細胞間を接着しているのでしょうか。

自分なりに調べてみたのですが、分からなかったので教えていただけると助かります。
T 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には立命館大学の石水先生から下記のような回答文を頂戴しました。ご参考になさってください。

【石水先生からの回答】
興味深いご質問、ありがとうございます。「約5億年前に植物が水中から陸上に進出した進化の際にペクチンを含む植物細胞壁を獲得した」ということをお知りになって、水中や水辺で生活する水生植物も陸にある植物と変わらなさそうなのに、と直感されてご質問されたのだと想像しました。もしそうであれば、鋭い直感だと思います。

草本植物の細胞壁の主成分は多糖です。その多糖は、セルロース、ヘミセルロース、ペクチンを構成成分としています。木本植物では、多糖に加えてリグニンという成分も多く含まれます。これらの細胞壁成分についての研究や最近明らかにされつつある細胞壁成分の生合成酵素遺伝子の研究から、現在の陸上植物が持っている細胞壁は、約5億年前に植物が水中から陸上に進出した際に獲得された、と考えられています。
ペクチンを合成できるようになったことで、細胞同士の接着がしっかりし、細胞壁の構造自体も強くなって、重力に逆らって植物が自立できる強さを持つようになりました。一方、花しょうぶやスイレン、セキショウモ、浮草などの水生植物にも、陸上植物と同様の細胞壁があり、構成成分にはペクチンも含まれます。これがご質問への回答になります。水生植物でも細胞同士の接着にはペクチンが関わっていることになります。

以上の説明は「約5億年前に植物が水中から陸上に進出した際にペクチンを含む植物細胞壁を獲得した」という知見と矛盾すると感じられるかも知れません。水生植物は、実は、比較的新しい時代(数千年前)に進化の過程で現れてきたもので、陸上植物が多様に進化していく中で、陸上植物にとっては未開拓の場所であった水中へと進出していったものであると考えられます。陸上生活から水中生活に戻っていく適応進化したものです。なお、花しょうぶもスイレンも被子植物に分類されます。水生植物は体を支える仕組みが陸上植物ほどは重要でなくなったこともあり、ペクチンの構造は一部独自なものに変化している場合もあります。

では、約5億年前にも存在していた水中の植物とは、どういったものでしょうか。クラミドモナスやクロレラ、マリモなど緑藻と分類されているものです。緑藻は陸上植物のような細胞壁は持っていません。多くは単細胞として存在するものもありますが、ボルボックスなどのように、限られた数の細胞が集まって群体を形成するものもあります。ボルボックスの細胞の接着には、動物細胞の接着に関わるタンパク質に似たもの(細胞外マトリックスタンパク質)が関わっていていることが最近わかってきました。緑藻の細胞壁に相当する細胞外皮の構造は多岐にわたっていて、水生植物や陸上植物の細胞壁の構造とは随分異なっているようです。また、ワカメやコンブのような藻類は緑色植物とは別の進化をしてきたと考えられています。このような藻類の細胞壁にはペクチンは見られませんが、アルギン酸という多糖があります。アルギン酸は構造がペクチンと似ているところがあり、細胞接着に関わると考えられています。


石水 毅(立命館大学生命科学部生物工学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2020-07-26
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