質問者:
大学生
皐月
登録番号4837
登録日:2020-08-15
ルビスコはカルビンベンソン回路に重要な役割を果たす酵素ですが,二酸化炭素の同化だけでなく,二酸化炭素と酸素の濃度によってはカルボキシラーゼ反応とオキシゲナーゼ反応が拮抗(?)していて反応が起こっていると知りました.みんなのひろば
ルビスコの活性とCO2/O2濃度
オキシゲナーゼ反応を抑えるため,植物はC4植物のように二酸化炭素の濃縮機構を作ったりしているとのことですが,一般的な大気の組成を考えるとルビスコ周りの酸素濃度は圧倒的に二酸化炭素より高くなると思います.
このような状況下で,例えばC3植物など濃縮機構を持っていない場合はどのようにカルボキシラーゼ反応を促進,あるいはオキシゲナーゼ反応を抑制しているのでしょうか?
オキシゲナーゼ反応によって生成されたホスホグリコール酸はホスホグリセリン酸に変換されカルビン回路に回収されている,という文章も見つけたのですが,それはカルボキシラーゼ反応が起こった場合の話で,抑制していることにはならないと考えました.
このような疑問を持っていたところに,ルビスコ周辺の二酸化炭素・酸素濃度は酸素濃度の方が高いが,ルビスコの活性(各反応の速度)はカルボキシラーゼ反応の方が高い……というような文章が載った文献を見つけ,その理由自体には触れられていなかったのでそうなっている理由を知ることができませんでした.
長文になってしまいましたが,(C3植物と仮定して)ルビスコ周囲の濃度が酸素の方が高いとき,どのようにしてオキシゲナーゼ活性を促進しているのでしょうか?
皐月 様
この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
二酸化炭素(CO2)と酸素(O2)がルビスコ(ribulose 1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase)複合体の特定部位への結合を競う形になるので、カルボキシラーゼとして働くかオキシゲナーゼとして働くかは、それぞれの基質に対する親和性(Km値)と反応の場におけるそれぞれの基質の濃度によって決められることになります。陸上植物の場合は、CO2とO2の二つの基質に対するKmとして、それぞれ、10~30μMおよび数百μM程度の値が報告されており、酵素の親和性の点では数十倍もCO2の側が有利になっているようです。一方、基質濃度を考える際に参考となる一気圧の大気と平衡にある純水(25℃)中のCO2とO2の濃度の値は、それぞれ、12μMおよび250μM程度であることが気体の溶存量に関するデーターから計算されます。実際に光合成が行われている細胞の場においては、温度や溶質・溶媒の組成などの問題もあり、また、O2発生やCO2吸収などの生理作用の影響があって事情は複雑ですが、上に挙げた数値はC3植物においてルビスコがオキシゲナーゼとしても機能していることを期待させるものです。
ルビスコのオキシゲナーゼ反応によって生成するホスホグリコール酸は、葉緑体・ぺルオキシゾーム・ミトコンドリアの協働で機能する光呼吸の代謝経路に取り込まれ、この経路ではCO2の放出があり、このCO2は葉緑体に移って上述のルビスコの反応環境を構成することになります。細胞器官の協働による光呼吸の過程は複雑ですので、今少し書物を読み込まれ、納得に至られることを期待します。「植物生理学」専攻とのこと、光呼吸の測定方法についても思いを馳せてください。
まとめになりますが、ルビスコの周囲では(モル濃度で比較して)O2がCO2よりも20倍(温度によりますが)も高濃度で存在していることが期待されますが、酵素のO2への親和性はけた違いに低いので、CO2には反応する機会が十分に与えられ、ルビスコはカルボキシラーゼとして同化に役立っているものと思われます。光照射によりルビスコの活性が調節されることは良く知られていますが、酵素本体のCO2とO2への親和性の選択的な調節に関しては余り知られていないと思います。
この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
二酸化炭素(CO2)と酸素(O2)がルビスコ(ribulose 1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase)複合体の特定部位への結合を競う形になるので、カルボキシラーゼとして働くかオキシゲナーゼとして働くかは、それぞれの基質に対する親和性(Km値)と反応の場におけるそれぞれの基質の濃度によって決められることになります。陸上植物の場合は、CO2とO2の二つの基質に対するKmとして、それぞれ、10~30μMおよび数百μM程度の値が報告されており、酵素の親和性の点では数十倍もCO2の側が有利になっているようです。一方、基質濃度を考える際に参考となる一気圧の大気と平衡にある純水(25℃)中のCO2とO2の濃度の値は、それぞれ、12μMおよび250μM程度であることが気体の溶存量に関するデーターから計算されます。実際に光合成が行われている細胞の場においては、温度や溶質・溶媒の組成などの問題もあり、また、O2発生やCO2吸収などの生理作用の影響があって事情は複雑ですが、上に挙げた数値はC3植物においてルビスコがオキシゲナーゼとしても機能していることを期待させるものです。
ルビスコのオキシゲナーゼ反応によって生成するホスホグリコール酸は、葉緑体・ぺルオキシゾーム・ミトコンドリアの協働で機能する光呼吸の代謝経路に取り込まれ、この経路ではCO2の放出があり、このCO2は葉緑体に移って上述のルビスコの反応環境を構成することになります。細胞器官の協働による光呼吸の過程は複雑ですので、今少し書物を読み込まれ、納得に至られることを期待します。「植物生理学」専攻とのこと、光呼吸の測定方法についても思いを馳せてください。
まとめになりますが、ルビスコの周囲では(モル濃度で比較して)O2がCO2よりも20倍(温度によりますが)も高濃度で存在していることが期待されますが、酵素のO2への親和性はけた違いに低いので、CO2には反応する機会が十分に与えられ、ルビスコはカルボキシラーゼとして同化に役立っているものと思われます。光照射によりルビスコの活性が調節されることは良く知られていますが、酵素本体のCO2とO2への親和性の選択的な調節に関しては余り知られていないと思います。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-09-05