質問者:
高校生
T
登録番号4866
登録日:2020-09-05
初めまして。組織培養
私は、高校でSSHに所属し、課題研究をしています。この研究について、お伺いしたいことがあります。
まず、私の研究についてです。私は、コダカラベンケイソウの組織培養における天然物の添加効果をテーマに研究しています。コダカラベンケイソウの不定芽と葉片を用いたカルス誘導において、促進効果のある天然物を突き止めるというものです。
しかし、培養途中で植物が枯れてしまい、カルスが形成されません。そこで、私の実験の改善点を指摘して頂き、アドバイスをして頂きたいです。
培地はMS培地を使用しました。MS培地の粉末と寒天を使用して培地を作りました。
天然物は、ココナッツミルク、トウモロコシ、エンドウの実、ジャガイモ、バナナを使用しました。トウモロコシ、エンドウの実、ジャガイモは、熱水抽出液を、バナナは水と一緒にミキサーにかけて作ったジュースを培地に添加しました。熱水抽出液もジュースも175g/Lになるようにしました。
MS培地は8mlずつ、天然物の液体は2mlずつ使用し、培養試験管内に培地を作りました。培養試験管には、アルミホイルを被せました。この培養試験管をオートクレーブを用いて滅菌しました。
出来た培地に、sirvip Gという殺菌剤に浸漬した不定芽と葉片を置床し、直射日光の当たらない、明るい窓際で培養しています。
以上が私の実験方法の概略です。ここを改善すれば、成功するよといった改善点や、他にもこんな研究をしたら面白いよなどといったアドバイスを頂きたいです。
科学展に出品するまでに、なんとか実験を成功させたいので、アドバイスよろしくお願いします。また、誠に勝手ながら、科学展への提出期限が迫っているため、お早めに回答頂きたいです。申し訳ありません。
よろしくお願いします。
Tさん
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。SSHで研究課題として取り組んでおられるとのことですが、実験計画を立てるときどれだけ文献などを調べて、準備されたのでしょうか。
ご質問に対しては、植物の組織培養関連の研究をされておられる県立広島大学生命環境学部生命科学科の荻田信二郎教授にお願いして以下のような詳しい回答/アドバイスをしていただきました。
【荻田先生の回答】
まずは実際にMS培地で植物ホルモンを用いた時、どのようなホルモンの濃度と組み合わせでカルスや不定芽の誘導が起こるのかを確認しているのでしょうか?
幾つか英語の論文では報告があるようです。総じてMS培地で3μM程度のBA(またはBAと同程度のオーキシンの組み合わせ)で効果があるようですね。一般的な培養条件というところでは植物ホルモンの効果を文献によってでも予め知っておくべきですね。
天然物の効果ということですので植物ホルモン以外にも糖やアミノ酸、その他の因子が培養過程において分裂や増殖を促進することはよくあります。この際には添加する抽出物の濃度によって促進または阻害の影響が出ることが予想されます。
前提としてMS培地は窒素源がリッチな培地であり、通常は炭素源としてスクロースを30g/Lの濃度で加えているので炭素源もリッチです。また参考までにココナッツミルクやバナナパウダーは試薬としても販売されており培養に使うこともありますが、促進効果が期待される濃度は一般に1−10%位だと思います。これも調べればわかります。175g/Lというのは料となる植物組織を抽出する際の分量ですね?
さて、MS培地と抽出液が8:2の混合比ですので 最終濃度は1/5となり35g/L(3.5%)相当ですので、これを基準に考えてみましょう。なお。各種植物の水抽出液の組成も調べれば報告はあります。例えば食品成分組成などをキーワードにしてもよいです。
植物組織が(カビないで?)枯れるということですが、無添加の条件も枯れるのでしょうか?枯れる原因は幾つか考えられます。一つは培地成分の濃度が全体的に高くなり、成長阻害することです。天然抽出物に 植物ホルモン様の物質が入っているという想定であれば それなりの濃度を添加したいところですが、前述のように糖やアミノ酸も成長促進や阻害に働きますので、現在の添加量は少し多いような印象を受けます。濃度が高いと浸透圧も高くなり、これも阻害の原因になります。もう一つは 抽出液中のポリフェノール量を考慮する必要があるのでは?というところです。こちらPPは 酸化褐変を引き起こしますので成長阻害に働く可能性はあります。観察している現象には合致するかもしれません。明るい窓際ということで枯れるという点においてPPを含む培地成分が光の影響で変化する可能性もあるかもしれません。
ーーーーーーーーーーーーーー
時間が限られているということと、実験施設の点があると思いますので 比較的簡単にできることをいくつかアドバイスしてみます。
1)まずはもう一度天然物(抽出液)の何が成長を促進するか?仮説を見直しましょう。植物ホルモン様の物質なのか、糖やアミノ酸、その他成分なのかで試験すべき濃度が変わります。
2)例えば天然物の成長に対する影響をまず確認するのであれば、手に入る種子をいくつかそろえて(イネ、ダイズ、レタスやアマランサスなど)抽出液を水で多段階に希釈したも の(1,5,10,50,100,1000倍希釈程度?)での発根発芽(胚軸や幼根の伸長の程度)状況を調べてみるのはいかがでしょうか?バイオアッセイの方法です。最新の方法ではありませんが感度は良いのでまずはコダカラベンケイソウではなくて分かりやすい植物種子を3−7日育ててみるのは意味があります。
ちなみにアマランサスというのはサイトカイニン存在下で赤くなるなどホルモンのアッセイにも使えます。胚軸伸長の程度はオーキシンやジベレリンの存在を類推できるかもしれませんね。少し情報を集めてみては?
3)抽出液の濃度は重量比で合わせていますが、実際には糖濃度はかなり違うと思います(例えばエンドウとバナナ)。前にも触れましたが培地の浸透圧が相当異なることも予想されま
す。この点は溶液の比重や浸透圧のことなので例えば容積あたりの重さを比べることなどでも簡単な実験で比較することができるのではないでしょうか?
4)1)と2)の結果によってですがいずれかの濃度で成長促進傾向があれば実際にコダカラベンケイソウの不定芽にかけて育ててみる(無菌培養ではなく)急がば回れですね。確実にデータを得るための実験です。
5)最後になりましたが培養に関してです。1)から4)が可能であればどれかの抽出液に集中して実験が可能だと思います。ただ1か月くらいはかかります。以下枯れるという現象を回避しながら成長促進を見ることを想定して提案するものです。その狙いは考えてみてください。
例えば2種類くらいの抽出液に絞り込んで現在のMS培地の濃度と/2MS培地、これにスクロース3%と無添加のものを作る。これらに抽出液の終濃度を現在の3.5%とその1/10の2つの濃度は少なくとも試す。できれば明条件と暗黒条件を試す。
6)おまけ:コダカラベンケイソウはあれだけの不定芽形成能力を持っていますのでその抽出液を作ってみて2)のバイオアッセイをする、または培養しやすい植物(カルス化しやすいもの:ニンジンの形成層とか)でその効果を確かめる でも色々と考察できるのではないでしょうか?内生のホルモンバランスがおそらく特徴的だと思います。
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。SSHで研究課題として取り組んでおられるとのことですが、実験計画を立てるときどれだけ文献などを調べて、準備されたのでしょうか。
ご質問に対しては、植物の組織培養関連の研究をされておられる県立広島大学生命環境学部生命科学科の荻田信二郎教授にお願いして以下のような詳しい回答/アドバイスをしていただきました。
【荻田先生の回答】
まずは実際にMS培地で植物ホルモンを用いた時、どのようなホルモンの濃度と組み合わせでカルスや不定芽の誘導が起こるのかを確認しているのでしょうか?
幾つか英語の論文では報告があるようです。総じてMS培地で3μM程度のBA(またはBAと同程度のオーキシンの組み合わせ)で効果があるようですね。一般的な培養条件というところでは植物ホルモンの効果を文献によってでも予め知っておくべきですね。
天然物の効果ということですので植物ホルモン以外にも糖やアミノ酸、その他の因子が培養過程において分裂や増殖を促進することはよくあります。この際には添加する抽出物の濃度によって促進または阻害の影響が出ることが予想されます。
前提としてMS培地は窒素源がリッチな培地であり、通常は炭素源としてスクロースを30g/Lの濃度で加えているので炭素源もリッチです。また参考までにココナッツミルクやバナナパウダーは試薬としても販売されており培養に使うこともありますが、促進効果が期待される濃度は一般に1−10%位だと思います。これも調べればわかります。175g/Lというのは料となる植物組織を抽出する際の分量ですね?
さて、MS培地と抽出液が8:2の混合比ですので 最終濃度は1/5となり35g/L(3.5%)相当ですので、これを基準に考えてみましょう。なお。各種植物の水抽出液の組成も調べれば報告はあります。例えば食品成分組成などをキーワードにしてもよいです。
植物組織が(カビないで?)枯れるということですが、無添加の条件も枯れるのでしょうか?枯れる原因は幾つか考えられます。一つは培地成分の濃度が全体的に高くなり、成長阻害することです。天然抽出物に 植物ホルモン様の物質が入っているという想定であれば それなりの濃度を添加したいところですが、前述のように糖やアミノ酸も成長促進や阻害に働きますので、現在の添加量は少し多いような印象を受けます。濃度が高いと浸透圧も高くなり、これも阻害の原因になります。もう一つは 抽出液中のポリフェノール量を考慮する必要があるのでは?というところです。こちらPPは 酸化褐変を引き起こしますので成長阻害に働く可能性はあります。観察している現象には合致するかもしれません。明るい窓際ということで枯れるという点においてPPを含む培地成分が光の影響で変化する可能性もあるかもしれません。
ーーーーーーーーーーーーーー
時間が限られているということと、実験施設の点があると思いますので 比較的簡単にできることをいくつかアドバイスしてみます。
1)まずはもう一度天然物(抽出液)の何が成長を促進するか?仮説を見直しましょう。植物ホルモン様の物質なのか、糖やアミノ酸、その他成分なのかで試験すべき濃度が変わります。
2)例えば天然物の成長に対する影響をまず確認するのであれば、手に入る種子をいくつかそろえて(イネ、ダイズ、レタスやアマランサスなど)抽出液を水で多段階に希釈したも の(1,5,10,50,100,1000倍希釈程度?)での発根発芽(胚軸や幼根の伸長の程度)状況を調べてみるのはいかがでしょうか?バイオアッセイの方法です。最新の方法ではありませんが感度は良いのでまずはコダカラベンケイソウではなくて分かりやすい植物種子を3−7日育ててみるのは意味があります。
ちなみにアマランサスというのはサイトカイニン存在下で赤くなるなどホルモンのアッセイにも使えます。胚軸伸長の程度はオーキシンやジベレリンの存在を類推できるかもしれませんね。少し情報を集めてみては?
3)抽出液の濃度は重量比で合わせていますが、実際には糖濃度はかなり違うと思います(例えばエンドウとバナナ)。前にも触れましたが培地の浸透圧が相当異なることも予想されま
す。この点は溶液の比重や浸透圧のことなので例えば容積あたりの重さを比べることなどでも簡単な実験で比較することができるのではないでしょうか?
4)1)と2)の結果によってですがいずれかの濃度で成長促進傾向があれば実際にコダカラベンケイソウの不定芽にかけて育ててみる(無菌培養ではなく)急がば回れですね。確実にデータを得るための実験です。
5)最後になりましたが培養に関してです。1)から4)が可能であればどれかの抽出液に集中して実験が可能だと思います。ただ1か月くらいはかかります。以下枯れるという現象を回避しながら成長促進を見ることを想定して提案するものです。その狙いは考えてみてください。
例えば2種類くらいの抽出液に絞り込んで現在のMS培地の濃度と/2MS培地、これにスクロース3%と無添加のものを作る。これらに抽出液の終濃度を現在の3.5%とその1/10の2つの濃度は少なくとも試す。できれば明条件と暗黒条件を試す。
6)おまけ:コダカラベンケイソウはあれだけの不定芽形成能力を持っていますのでその抽出液を作ってみて2)のバイオアッセイをする、または培養しやすい植物(カルス化しやすいもの:ニンジンの形成層とか)でその効果を確かめる でも色々と考察できるのではないでしょうか?内生のホルモンバランスがおそらく特徴的だと思います。
荻田 信二郎(県立広島大学生命環境学部生命科学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2020-09-08
勝見 允行
回答日:2020-09-08