一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

気孔閉じる仕組み

質問者:   教員   えびたく
登録番号4867   登録日:2020-09-06
生徒の質問に苦労している教員です。気孔が閉まる時、アブシジン酸によって小胞体からCa2+が放出されるところまでは、動物の筋収縮のようで馴染んだのですが、その後の更にチャネルによってCa2+が流入してくるところからが、上手く説明できません。
何故、そんなにCa2+が必要なのか?また、あまり出てこないCl-チャネルの必要性も教えていだだきたいと思います。
えびたく 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には、気孔開閉のメカニズムの解明に取り組まれておられる島崎先生(九州大学)から、下記の回答文を頂戴しましたので、参考になさってください。

【島崎先生からの回答】
まず、質問文に書かれている「アブシジン酸により小胞体からCa2+が放出される」という事実は孔辺細胞においては確定しておりません。現在、アブシジン酸は細胞膜のCa2+チャネルを開かせ、それを通して外液のCa2+が細胞質に流入してくると考えられています。外液のCa2+は1mM(ミリモル)、細胞質は0.1μM(マイクロモル)くらいですから、チャネルが開けば1万倍程度の濃度勾配に従ってCa2+が流入します。それにより、細胞質のCa2+濃度が(1μM 程度に)上昇します。このCa2+が気孔閉鎖を引き起こします。

気孔閉鎖には2つの条件が必要です。まず、①気孔閉鎖を促進すること、それに、②気孔開口を阻害することです。気孔閉鎖を促進しても気孔開口が促進されていれば、気孔は閉じにくくなるからです。Ca2+は気孔閉鎖促進、気孔開口阻害の両方に働きます。

気孔閉鎖には細胞膜の陰イオンチャネル(質問者の言われる”Cl-チャネル”というのは不正確で、”陰イオンチャネル”というのが正しいです。何故なら、このチャネルはCl-のみならずリンゴ酸も通すからです)の活性化が必要で、Ca2+はこの陰イオンチャネルを活性化します。また、気孔開口は細胞膜のプロトンポンプに駆動されますが、Ca2+はこのポンプを阻害します。こうして、Ca2+は気孔閉鎖を引き起こします。

Ca2+がどのように陰イオンチャネルを活性化するかについては、現在、詳しく研究されているところです。一方、アブシジン酸による気孔閉鎖にはCa2+を必要としない別経路の存在も明らかになっていることを付け加えておきます。

参考のために、陰イオンチャネルがどのように気孔閉鎖を駆動するか述べておきましょう。陰イオンチャネルが開くと孔辺細胞に高濃度に蓄積しているCl-、または、リンゴ酸が流出します。これによって、孔辺細胞の膜電位はプラス側に変化し(脱分極といいます)、今度は、このプラスに変化した膜電位によりK+チャネルが開き、同じく、孔辺細胞に高濃度に蓄積しているK+の流出が始まります。こうして、K+とCl-(リンゴ酸)の両イオンの流出が継続し、最終的に気孔閉鎖に至ります。
島崎 研一郎(九州大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2020-09-14