一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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子葉と側根の関係

質問者:   大学生   雨あがり
登録番号4873   登録日:2020-09-13
植物の根について色々調べていた所、ダイコンについて紹介している記事にて子葉と側根の伸びる向きは同じとの記載がありました。しかし、四方八方360度、色々な方向に伸ばした方が植物にとって効率が良い筈です。何故、子葉の向きに側根を伸ばすのでしょうか?それとも、その記事自体がデタラメだったのでしょうか?拙い文章で申し訳ありませんが御回答の程、宜しく御願いします。
雨あがり 様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
回答に先立って、回答の理解に必要なことをごく簡単にまとめておきます。
茎の横断切片においてみられる、維管束を構成する木部と師部の配列は植物によって多様ですが、ダイコンの茎の場合は師部が表皮に近い外側に、それに接してその内側に木部が配列しています。高校の生物の教科書にも描かれているように、多くの植物でみられる配列です。それに対して根では師部と木部が独立に、交互にリング状に配列しています。ダイコンでは二原型といって、二つの木部があります。すなわち、二つの師部と二つの木部が交互にリング状に配列しており、それぞれ師部同士、木部同士が向かいあっています。
根で吸収された水は木部を通って地上部に運ばれるわけですから、根の木部と茎の木部はつながっているはずです。同様に師部もつながっています。根の木部や師部の配列が茎の木部や師部の配列に移行していく過程は胚軸(子葉と根の間)でおこります。多くの植物では、根の先端から基部に向かって、木部が二つに枝分かれしそれぞれの近傍の師部の内側で合流して茎の維管束の配列になることが知られています。
また、側根は木部に相対する内鞘や内皮が分裂して生ずることが知られています。

以上の教科書的な知見をもとに子葉の展開方向を考えてみますと、根の師部のところに木部が合流して茎型の維管束になり子葉の維管束につながっていきますので、根の師部を結んだ線上が子葉の展開方向になります。一方、側根は原生木部をむすんだ線上ということになりますので、子葉の展開方向とは直交するという予想になります。
そこで、この考えが成り立つのか、ダイコンの場合は、何か異なったことが起きているのかについて、植物形態学がご専門の福田泰二先生にお尋ねしました。

【福田先生の回答】
ご質問にピッタリの答えができそうな参考文献があります。それは前世紀の前半に書かれたThe Structure of Economic Plants という本で、トウモロコシ、ジャガイモなどいくつかの植物に関して解剖学的な記述が並べられたものです。扱われた植物は10種程度ですが、その中にダイコンも入っています。
師部と木部の根における配列から茎の維管束における配置への、胚軸におけるtransition(移行、遷移などと訳されるが、時間的ではなく空間的な話)の型は、植物の種類によって一様ではありません。しかし、多くの種では、根の木部がそれぞれ二つに枝分かれし、それぞれが隣接する師部の内側(表皮と反対側)で隣接する木部から枝分かれしてきた枝と合流することによって茎型維管束になりますが、ダイコンの場合は少し違っています。
ダイコンの根は二原型木部をもっています。ダイコンの場合、根の木部は胚軸の上方に向かって複雑な構造変化をしますが、最終的には胚軸の上部では、根で表皮に近い外側にあったところが内側に、内側にあったところが外側へと逆転します。しかし、木部が存在していた位置は変りません。それに対して、師部はそれぞれが二分して、その枝は斜め上方に向かい、木部の外側(表皮側)で異なる師部からきた枝と合流します。このようにして胚軸の上部では、下方の、根の木部の真上に茎型の維管束ができます。この維管束は、ほとんどの部分が子葉の葉柄の中に入ります。したがって、子葉の展開する方向と根の木部を結ぶ方向 ーすなわち、側根の出る方向ー とが一致することになります。
参考文献 : H.E. "The Structure of Economic Plants" (MacMillan, 1938)


教科書的な知見から考えた私の予想は見事に外れました。根における木部と師部の配列が、胚軸で茎型の維管束の配列に移行する時に、多くの植物では、根の木部が二つに枝分かれし、それぞれが近接の師部の内側で合流することによるのに対して、ダイコンでは木部ではなく師部が二つに枝分かれして木部の外側で合流するという違いがあることが予想の外れた原因でした。改めて植物の多様性に脱帽です。 (庄野邦彦)
福田 泰二(元千葉大学園芸学部教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2020-10-01