一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

種子の発芽

質問者:   一般   けん
登録番号4895   登録日:2020-10-02
ネギを栽培しているものです。はじめて利用させていただきます。

ネギの種子は短寿命とされていますが、きちんと保管していれば5年前のものも発芽しました。

ここらから疑問が出てきまして、そもそも発芽しなくなるとはどのような現象なのでしょうか。
種が持っていた水分を消費しきったのか、呼吸で胚乳がなくなってしまうのか??

それが分かると種まきしなくてもまだ発芽する種が分かるのではと思ったのです。またネギの種が短寿命といわれる理由にも繋がると思いました。

よろしくお願いします。
けん様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。植物種子の保存は作物・園芸植物などの栽培植物については大切な問題ですし、植物種の遺伝子保全の点からも利用されています。種子の寿命は千差万別で種によって異なりますが、同じ種でも種子が成熟後どのような条件に置かれていたかでも著しく異なります。また、生育した地域の影響も受けるようです。
種子の寿命に関する記述は古代ギリシャ時代からあるようですが、19世紀頃から様々な植物について「古い種子」の発芽能力に関する文献が報告されています。しかしこれらは種子が置かれていた条件などは不明ですので、科学的に信憑性のあるデータとは見なされていません。一番よく知られているは1931年に日本の大賀博士が発見した古いハスの種子でしょう。満州の古い湖床に埋まっていたハスの種子が発芽能力を持っていたというものです。湖床の年代は約400年と古いものなので、このハスの種子は400年ほど生きていたことになります。その後、放射性炭素による年代測定が行われた結果、1,040±210年という数値だと報告されました。さらに1951年千葉県検見川の泥炭層から見つかったハスの種子は放射性炭素測定により3,075±180年と報告されています。この種子は発芽成長して開花したことで知られています(大賀ハス)。さらにもっと古い例はエジブトのミイラと一緒に発見されたコムギ、オオムギの種子です。6,000年前後と言われていますが、残念ながらこの例は疑問視されているようです。土中に埋もれた18種の野生植物の種子がどのくらい長く発芽力を保持できるかという実験を最初にやった人は米国のBealですが、1884年にスタートして、1951年にDarlingtonが結果をまとめて学術誌に報告しています。その中で70年後に発芽できたのはメマツヨイグサ、ナガバノギシギシ、Verbascum blattaria (モウズイカの仲間)、50年はクロガラシ、ヤナギタデ、40年はアオゲイトウ、マメグンバイナズナでした。
種子が生きているということは、種子の中の胚(植物の赤ちゃん)が生きているということです。種子の中では胚は休眠状態にあります。発芽というのはこの休眠が破れて、胚の成長が開始されるということです。休眠期間がとても短い種子や、休眠が破れるのに諸環境条件が整うことが必要な種子もあります(本コーナーで「休眠」で検索してみてください)。胚が生き続けるためには、最低限の生命維持の細胞活動は必要です。つまり、種子の寿命は胚がほそぼそとどれだけ長く生きていられるかということで決まります。
種子は休眠の条件がとければ発芽しますが、その時まず必要なのは吸水です。種子は吸水することによって、胚や胚乳などの栄養組織で活発な生化学反応が始動されます。こうして成長に必要なエネルギーや細胞を構成する物質をつくり出していきます。これらの生化学反応がスムースに進行するためには適温が必要です。発芽の適温は種によって異なります。このほかに、酸素、二酸化炭素などの気体も影響します。このことから分かるように、胚が発芽を始めないような条件においてやれば長期間種子の寿命を延ばすことも可能です。従って、種子を長期保存したい時は、一般に乾燥状態で低温で保存することです。どのくらいまで長期に保存できるかは、種子の構造、例えば種皮の水分透過性などによっても同じではありません。
 ネギの種子についての実験例は知りませんが、同じ仲間のタマネギの場合、保存(相対)湿度が50%を越すと、5℃では1年経っても発芽率はあまり変わらないが、20℃を越すと、1ヶ月で急速に低下するという報告があります。また、別の実験では、空気乾燥したタマネギの種子を乾燥剤と一緒に実験室と−4℃とに保管した場合、前者では12年経っても32%が発芽し、後者では20年経っても90%以上が発芽したと報じています。けんさんは、ネギの種子を「きちんと保管」すると5年経っても発芽したということですが、実際にはどのような条件だったのか、発芽率はどうだったのでしょうか。ネギの種子もよく乾燥して、密閉低温に置けばかなり長く寿命が保てるのではないかと思います。
普通の条件で貯蔵して発芽率が低くなった古い種子は、発芽してもその後の生育が悪かったり、異形になったりすること多いようです。貯蔵中の様々な環境要因の影響が遺伝子に異常をもたらし、突然変異を起こすことが考えられます。
種子が生きているかどうかを調べる方法はいくつかあります。種子を切って試薬で染め、胚の生理活性反応が高いかどうかを見たりすることもありますが、一番簡単で確実なのは、使用する種子の一部をサンプリングして実際にペトリ皿などの中で発芽させてみて、発芽の%を調べることです。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-10-14