一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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早生と晩生の生長速度について

質問者:   自営業   ミント
登録番号4911   登録日:2020-11-01
栄養生長から生殖生長に移行するまでの栄養生長期が短いものを早生、長いものを晩生というようなのですが、同一の生育環境だった場合、早生と晩生では栄養生長期の細胞組成・分裂の速さも違ってきますか?

早生と晩生で、細胞を作り組み立てる速さの差があるのか教えて頂きたいです。
ミント様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。早生、中生、晩生という分類はご質問にもあるように、同じ植物種でも早く結実するものと遅く結実するものがあり、その違いが遺伝的に異なっていることにより、それぞれ区別しているものです。作物・園芸などの栽培植物について使われています。早生、晩生という形質の発現は栽培される環境条件、例えば日長などによって影響を受けるようです。
ところで、ご質問は「栄養生長の時期において、早生と晩生とで、生長に差はあるか? また、細胞の数、サイズ、種類など、細胞レベルで差は見られるか?」ということかと思います。ある植物(例えば、イネ)のある早生品種とある晩生種が一つの遺伝子の変異だけによるものとして、また、栽培条件(温度、日長、光度、光波長、給水、肥料など)は全て同一であるとした場合のことを考えてみます。栄養生長は植物体(草本植物を対象とします)の茎頂と根端とで起きますが、ここでは地上部だけを問題にします。茎頂には茎頂分裂組織があり、絶え間なく細胞分裂を繰り返し、細胞数を増加しています。新しく作られた個々の細胞は茎軸を下方へ押しやられ、細胞のサイズは大きくなります。(主として縦方向への伸長)、同時に細胞はそれぞれ場所によって外側から表皮、皮層、維管束系と分化して、茎を形作ります。茎の伸長はこのように主に個々の細胞の伸長によっておきます。また、茎頂では外側に一定の配列で葉原基が形成され下方へ押しやられるに従って、葉に生長していきます。そして葉と葉の間は節間として茎を構成することになります。分裂組織の細胞分裂の速度、個々の細胞の伸長速度は植物ホルモン(オーキシンやジベレリンなど)によって制御を受けています。
次に、植物が生殖生長相(イネでは幼穂形成から出穂の時期)に移行するということは、植物体の茎頂でそれまで続いていた葉原基の形成が止まり、代わりに花原基が形成され始めるということです。花原基の誘導は花成ホルモンの働きでおきます。早生品種はこれが早く起きるということです。葉原基の形成が止まると、茎頂分裂組織の活動は止まり、その結果茎軸での新しい細胞の増加も細胞の伸長も止まり、結果的に茎の伸長は止まります。従って、早生の品種は晩生の品種に比べて背丈は低いようです。オオムギの場合は花穂が形成されるまでに伸びた稈長はどの品種も早生の方が短いというデータを示した報告がありました(葉の数が少ない)。実際に細胞数や細胞長を測定比較した報告には行き当たりませんでしたが、全体の茎の長さには違いが出るが、単位茎長あたりの細胞数や細胞の長さには違いがないと思われます。早生や晩生の変異に幾つかの他の遺伝子も関わっている場合、それが、直接的であれ間接的であれ、例えば植物ホルモンの合成や作用発現など細胞分裂や細胞伸長に関わることになれば、それらの過程にも違いは出るでしょう。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-11-03