一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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絶対的陰生植物

質問者:   会社員   アオキ
登録番号4912   登録日:2020-11-09
 アオキ(Aucuba japonica)の生態について調べていた際、アオキは「陰性植物」のなかでも特に生育可能な光環境が制限される「絶対的陰性植物」であると述べられていました。
 「陰性植物」は「絶対的陰性植物」と、生育可能な光環境が成長過程で変化する「条件的陰性植物」とに分けられるそうなのですが、一般に図鑑などで「陰性植物」として挙げられる植物は、何を観察すれば「絶対的陰性植物」であるか、もしくは「条件的陰性植物」であるか、といった判断できるのでしょうか。
アオキ 様

このQ/Aコーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には東京大学の寺島一郎先生から下記の回答文を頂戴しました。ご参考になさってください。

【寺島先生からの回答】
陰生植物を絶対的と条件的に二分することについての質問、ありがとうございます。なお、この分野では陽生植物・陰生植物というように、「性」ではなく「生」を使うのが慣例です。

回答はあまり明快ではありません。というのも、植物の性質の違いは連続的なものが多く、なかなか峻別できるものではないからです。絶対的陰生植物の例としてあげられているアオキも、栽培光環境に少しは順化(順化)します。うんと暗い場所からやや明るいところまで分布しています。しかし、明るい場所では葉が黄色く焼けてしまいますし、直射日光のあたる環境には見かけません。一方、暗いところでもよく見かけるが、かなり明るい場所にも生育する植物もあります。このような差を、おおまかに絶対的とか条件的とか言っているのです。デフォールトとして弱光環境に適合した植物で、あまり環境に応じて可塑的に形態や機能を変えることができないもの(弱光スペシャリスト)か、かなりの範囲の環境に応じて形態や機能を変えることができるもの(ジェネラリスト)との区別といってもいいかもしれません。

原理的には、いろいろな強さの光の下で植物を栽培して比較するとわかるはずです。そのような研究も実際にあります。しかし、図鑑にある全ての植物についてそのような実験を行われたわけではありません。このような実験ではいろいろなことが調べられてきました。一番わかりやすいのは生死でしょう。成長速度でも判断できます。光が強いとそれがストレスとなって成長速度が低下しますが、その光強度は植物によって異なります。ただし、注意しなければならないのは、光が強いところでは乾燥も厳しくなることです。したがって光がストレス要因となっているのか、水不足がストレス要因になっているのかはよく分かりません。

可塑性の高い植物は、強光で栽培するほど厚い葉をつくります(陽葉)。これは、細胞分裂や細胞の伸長によって柵状組織が厚くなるからです。弱光専門の植物にはこの性質が見られず、薄いままです。葉の厚さは、CO2固定速度などの光合成速度と相関します。強光に可塑的に馴化することができる植物の葉は、強光で栽培するほど厚くなり、光合成活性が高くなりますが、弱光専門の植物の葉は厚くなりません。光合成速度は上昇せず、却って低下してしまいます。葉の色を見て判断するもの一つの方法です。光が強すぎると、光エネルギーを集めるためのクロロフィルは少なくてよいし、光合成系を強い光から守るカロテノイドなどは増えるので、緑が薄くなりだんだん黄色になっていきます。強すぎる光が葉緑体を損傷することも知られています。植物には損傷を修復する能力もあり、実際に強光下では損傷と修復の両方が起こっています。弱光専門の植物は、強光への防御が完全ではないので損傷を受けやすく、修復も遅いのです。損傷の受けやすさや修復の具合は、植物の発する蛍光を分析すれば簡単に分かります。
寺島 一郎(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2020-11-12