質問者:
一般
kurosan
登録番号4913
登録日:2020-11-09
趣味で身近な植物の植物画を描いております。落花生を2年間栽培してたくましさと不思議に感動しました。実や花の時期を描き、子房や花の部分図、解剖図も実体顕微鏡で観察して描き添えました。みんなのひろばで落花生がなぜ土に潜るのかも拝読しました。 ところで、子房柄が下に伸びるのは、生長運動、屈地性と考えて良いのでしょうか? オーキシンの分布の変化によって屈曲がおきると考えても良いのでしょうか?落花生の子房柄が下(土)に向かって伸びるのはオーキシンの働きですか?
お教えいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
kurosan様
植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
子房柄が正の重力屈性(屈地性)を示し下方に向かって伸長することは、ラッカセイの果実や種子が地中で成熟し、子孫を残す上で重要な反応です。
その反応の制御に何が重要かということについては多くの研究があります。子房柄の先端から2~5 mm が最も成長速度の速い場所で、重力屈性もここで起こります。先端の1.5 mm を切除しますと、伸長生長も重力に対する反応も弱まったり、失なわれたりしますが、切除した先端にインドール酢酸 (IAA) という物質(天然のオーキシン)与えますと伸長生長も、重力に対する反応も回復します。このような実験から、ご推察のとおり、子房柄の下方へ向かっての伸長生長には、IAAが主要なはたらきをしていることがわかります。
ところが、不思議なことに多くの植物の地上部は水平におかれると地面とは反対の方に屈曲(負の重力屈性)するのに、地上部の器官であり、組織形態も地上部のものであるのに、子房柄は地面の方向へ向かって屈曲します。一般的には、水平に置かれた地上部の負の重力屈性は、茎の先端で合成されたIAAが重力に対して反応し、茎の下側に多く分布することで、下側の組織の生長が上側に比べて大きくなるためと説明されています(Cholodony-Wentの仮説)。その仮説を支持する研究も多くあり、一般的に認められています。
そこで、ラッカセイの子房柄ではどうなっているか研究されました。その研究によりますと、ラッカセイの子房柄を地面と平行になるように置いた場合、伸長生長の盛んな部位の下側の組織より上側の組織にIAAが多く分布することで、上側の組織の生長が下側より大きいために下側に向かって屈曲するということです。どの植物の場合も成長の盛んな領域の上側と下側でIAAの偏在がおきることで、生長の大きさに差異が生じ、伸長の大きい側とは反対側に屈曲が起きることは同じです。しかし、植物によってIAAが下側に多く分布するか、上側に多く分布するかの違いがでるのはどのようにしてかは、これから調べる必要のある問題です。
ラッカセイの子房柄がどのような方法で調べられたか、詳しい研究結果は下記の論文をご覧になって下さい。
Mocteguma, E. and Feldman, L.J.
Auxin redistributes upwards in graviresponding gynophores of the peanut plant, Planta(1999)209:180-186
<https://www.dropbox.com/s/2hjhehquh7nxqu2/Moctezuma-Feldman1999_Article_AuxinRedistributesUpwardsInGra.pdf?dl=0>
趣味で植物画を描いておられるとのことすてきです。実体顕微鏡まで使って描かれておられるとのこと、いろいろ新しい発見があるのではないかと思います。また、興味深い質問をお寄せ下さい。
植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
子房柄が正の重力屈性(屈地性)を示し下方に向かって伸長することは、ラッカセイの果実や種子が地中で成熟し、子孫を残す上で重要な反応です。
その反応の制御に何が重要かということについては多くの研究があります。子房柄の先端から2~5 mm が最も成長速度の速い場所で、重力屈性もここで起こります。先端の1.5 mm を切除しますと、伸長生長も重力に対する反応も弱まったり、失なわれたりしますが、切除した先端にインドール酢酸 (IAA) という物質(天然のオーキシン)与えますと伸長生長も、重力に対する反応も回復します。このような実験から、ご推察のとおり、子房柄の下方へ向かっての伸長生長には、IAAが主要なはたらきをしていることがわかります。
ところが、不思議なことに多くの植物の地上部は水平におかれると地面とは反対の方に屈曲(負の重力屈性)するのに、地上部の器官であり、組織形態も地上部のものであるのに、子房柄は地面の方向へ向かって屈曲します。一般的には、水平に置かれた地上部の負の重力屈性は、茎の先端で合成されたIAAが重力に対して反応し、茎の下側に多く分布することで、下側の組織の生長が上側に比べて大きくなるためと説明されています(Cholodony-Wentの仮説)。その仮説を支持する研究も多くあり、一般的に認められています。
そこで、ラッカセイの子房柄ではどうなっているか研究されました。その研究によりますと、ラッカセイの子房柄を地面と平行になるように置いた場合、伸長生長の盛んな部位の下側の組織より上側の組織にIAAが多く分布することで、上側の組織の生長が下側より大きいために下側に向かって屈曲するということです。どの植物の場合も成長の盛んな領域の上側と下側でIAAの偏在がおきることで、生長の大きさに差異が生じ、伸長の大きい側とは反対側に屈曲が起きることは同じです。しかし、植物によってIAAが下側に多く分布するか、上側に多く分布するかの違いがでるのはどのようにしてかは、これから調べる必要のある問題です。
ラッカセイの子房柄がどのような方法で調べられたか、詳しい研究結果は下記の論文をご覧になって下さい。
Mocteguma, E. and Feldman, L.J.
Auxin redistributes upwards in graviresponding gynophores of the peanut plant, Planta(1999)209:180-186
<https://www.dropbox.com/s/2hjhehquh7nxqu2/Moctezuma-Feldman1999_Article_AuxinRedistributesUpwardsInGra.pdf?dl=0>
趣味で植物画を描いておられるとのことすてきです。実体顕微鏡まで使って描かれておられるとのこと、いろいろ新しい発見があるのではないかと思います。また、興味深い質問をお寄せ下さい。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-11-12