一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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どうして液胞に貯蔵されているものは分解されず貯蔵できるのか

質問者:   会社員   ささき
登録番号4915   登録日:2020-11-19
お世話になっております。こちらの素晴らしい質問サイトをたまたま拝見し、ふと以前から疑問に感じていたことを思い出したので質問させていただきます。

植物細胞には大きな液胞があり、その中には種々の分解酵素や糖分や色素、さらには老廃物など様々なものが含まれていると勉強したことがあります。動物細胞でいうところのリソソームに相当する働きも行っているとその時に聞きました。
ではなぜ分解酵素で糖分や色素などその他化合物達が分解されないのでしょうか。リソソームとして作用するならば取り入れたものをほとんど分解するのではないかと思い、これが学生時代から長年の疑問でした。
もしや液胞内がいくつかの空間に分かれていて別々に貯蔵されていたりするのでしょうか。

お答えいただけますと幸いです。
ささき さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
細胞内小胞系を研究されている西村幹夫先生にうかがいました。
少し補足しますと、植物細胞の液胞というと中央にある大きな液胞(central vacuole)を思い出しますが、実際には静的な構造体ではなく、細胞の齢、生理的条件によって機能が変化する動的な構造体です。細胞内分解系のすべてが液胞内にあるのでは無く、細胞の必要に応じて酵素類の分布、基質分布は高度に調節されています。

【西村先生のお答え】
植物細胞の液胞は アミノ酸、無機塩類、有機酸、二次代謝産物などの低分子物質のみならず、貯蔵タンパク質などの高分子物質も貯蔵しています。液胞内は常に酸性に保たれ、酸性に高活性を示す各種の加水分解酵素を含んでいて動物細胞のリソゾームと同様の細胞内の分解系を担う役割を担っています。貯蔵タンパク質における貯蔵と分解という相反する役割がどのように制御されているかを見てみると、種子が形成され成熟する過程には、種子貯蔵タンパク質が多量に合成され、液胞の中に蓄積されます。この液胞はタンパク質蓄積型液胞と呼ばれており、その中に貯蔵タンパク質を分解するプロテアーゼ群を含んでいないので、貯蔵タンパク質を安定して蓄積できます。種子の発芽とともに、このプロテアーゼ群は細胞質で合成され、液胞に輸送されます。液胞内でこのプロテアーゼ群が貯蔵タンパク質を分解し、成長に必要なアミノ酸を供給することになります。この液胞はタンパク質分解型液胞と呼ばれ、種子の発芽時にはタンパク質蓄積型からタンパク質分解型へと、液胞の機能分化が生じます。
このように、植物の組織、成長段階によって時空間的に液胞の機能分化が観察されます。液胞は、上記の貯蔵と分解だけではなく、水の出入りを調節して細胞の膨圧や恒常性の維持にも機能しています。また、ウイルスなど病原微生物感染の個体内拡大を防ぐためにおこるプログラム細胞死など植物の高次機能にも重要な役割を果たしており、関連するプロテアーゼの液胞内における局所的局在化が検討されています。液胞の多様な働きと機能分化の解明は植物細胞の特徴につながるものであり、現在も多くの研究者が研究を進めています。
西村 幹夫(甲南大学特別研究員)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2020-12-03