一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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紅藻デンプンの抽出について

質問者:   高校生   えび
登録番号4919   登録日:2020-11-20
学校の課外活動で自由なテーマで実験を行うというもので、『紅藻からデンプンを取り出す』という実験をしています。やり方としては以下のようにしました。

①紅藻を乳鉢と乳棒ですり潰す。
(すり潰しやすいように珪砂を入れました)
②水と①を混ぜたものをデンプンを通すため濾 紙より目の大きい台所用水切りフィルター[不織 布]で濾過。
③1日放置
④上澄み液を捨てる。
④沈殿物(白色のものとピンク色のもの)でヨウ 素溶液反応を調べる。

白色の沈殿物にヨウ素溶液をかけたところ、黄色になりました。この物質は何でしょうか?ピンク色のものは変化ありませんでした。
えび 様

このQ/Aコーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には神戸大学の村上先生から下記の回答文を頂戴しましたので、参考になさってください。参考文献には英文のものもありますが、主な図表を中心に、読み取ることにチャレンジされることをお勧めします。

【村上先生からの回答】
紅藻の細胞破砕物を分別して得られた不溶性の白い沈殿物の正体に関するご質問ですが、デンプンであることを期待してヨウ素液を添加されたものと思います。ところが、植物の葉や種子に含まれるデンプンのように濃い青紫色にならず、淡い黄色を呈したので不思議に思われたようですね。 
小学校の教科書にも登場するヨウ素デンプン反応は、200年以上前にフランスとドイツの化学者により発見されましたが、その発色の仕組みが明らかになるまでには長い時間を要しました。一般的に、植物のデンプンにヨウ素を混ぜると青紫色を呈するとされていますが、温度などの反応条件やデンプンの構造の違いによって色が変わるなど複雑な反応系です(参考1)。

参考1:「ヨウ素デンプン反応の発色のしくみ」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/63/5/63_KJ00010110249/_article/-char/ja
真正紅藻のデンプンの特性を植物のデンプンと比較した研究が報告されています(参考2)。オゴノリの仲間から抽出したデンプンはヨウ素反応で赤褐色を呈したようです。また、植物由来のデンプンにも、青紫色ではなく赤褐色を呈する成分も含まれているようです。

参考2:”Physico‐chemical Characterization of Floridean Starch of Red Algae”
https://www.academia.edu/14481600/Physico_chemical_Characterization_of_Floridean_Starch_of_Red_Algae
今回の実験ではヨウ素反応により淡い黄色に見えたようですが、ヨウ素液の濃度や反応条件を工夫するとより濃く見える可能性もあります。自由なテーマの実験として選んだ課題なので、いろいろな工夫をされたものと思います。実験に用いた紅藻の種類・量・状態、実験の手順と条件、観察結果などは出来るだけ詳しく記録しておくとよいでしょう。紅藻類は単細胞のものから多細胞のものまで進化的にも多様な系統群を含んでおり、デンプンの構造も変化に富み、ヨウ素反応で呈する色も変わるようです。なお、ヨウ素デンプン反応に関する質問は、『植物Q&A』にたくさん寄せられていますので参考にしてください。
村上 明男(神戸大学内海域環境教育研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2020-12-08