一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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能動的吸水について

質問者:   その他   mayu
登録番号0492   登録日:2006-01-27
能動的吸水を調べていますが、よく理解できません。
いつどのようなときに起こるのか、また、仕組みについて教えてください。
mayu さん:

お待たせしました。生体膜を介した物質吸収や細胞の水分調節を研究されている名古屋大学 前島正義先生に回答をお願いしました。
ご質問にある「能動的吸水」の表現には誤解を招きかねない点もありますので注意深くお読み下さい。物質(水も物質です)の吸収は生体膜を通る物質の移動で、通常は移動に関する装置が生体膜上にあります。生体膜上の装置がエネルギーを消費して駆動されるときに「能動的物質移動」といっています。前島先生のご説明にあるように水の移動は水チャンネルという小孔を介しますが水チャンネル自体はエネルギーを消費しません。関連質問が登録番号0327にありますので参考にして下さい。


「能動的吸水」は必ずしもなじみのある言葉ではありませんが,ここでは植物の根が吸水するケースとして考えてみます。植物が吸水できるのは,葉からの蒸散があるからだ,という説明はよく知られています。毛細管のような維管束中を水が根から葉に吸い上げられることが,根での吸水の原動力とする説明です。これに加えて,根の部分での溶質濃度差に依存した吸水があります。根は積極的(能動的)に無機イオンを吸収します。これにはもちろん生化学的なエネルギーを消費しています。細胞内の無機成分や有機成分の濃度が高まれば,土壌(湖沼・河川に生育する植物では水)との間に浸透圧差が生じ,吸水力が生じます。これが能動的吸水と考えられます。

 少し具体的に考えることにします。植物はリン酸,アンモニウム,カリウム,カルシウム,鉄など多様な無機成分として活発に吸収します。根毛から入ったこれらの成分は次々と根組織の中の細胞に取り込まれていきます。こうして根組織全体の溶質濃度が高くなります。光合成産物の糖を根も吸収し,摂り入れた無機成分も利用して多様な有機成分を合成しますので,それらの分子やイオンも溶質濃度を高めることになります。溶質濃度が高くなると吸水力が増します。

 水分子をポンプのように汲み上げる膜輸送装置はありません。生体膜を介して水を輸送するのは水チャネルと呼ばれる,生物界共通の膜タンパク質です。この水チャネルは膜を介して浸透圧差が生じているとき,その浸透圧差にしたがった水の移動を促進するはたらきをします。ですから,基本的に受動的な分子装置です。しかし,上述しましたように,溶質輸送系も含めたシステムとして全体をみると能動的なシステムと考えることもできます。

前島 正義(名古屋大学生命農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-08-25
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