質問者:
中学生
アジサイ
登録番号4936
登録日:2020-12-06
植物はナトリウムイオン、アンモニウムイオンなどの物質を選んで吸収できるという話をよく聞きます。しかし、農薬の中には根から吸収させるタイプのものがいくつかあります。植物は自分にとって有害であるはずの農薬をなぜ吸収してしまうのでしょうか。
農薬の根からの吸収
アジサイさん
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
根はいろいろな物質を吸収しますし、それで生きていることでもありますね。そこで、根が物質を吸収する経路を辿ってみます。
植物の細胞は、細胞膜に囲まれた袋状の部分とその外側に綿布のような細胞壁があり、細胞は細胞壁で接しています。そのため根の内部にある細胞の細胞壁はすべて網状につながっていることになります。根が接する土の中にある外部溶液がそのまま細胞壁内部へ浸透します。つまり細胞壁は外部物質の透過に関しては抵抗になりません。言い換えると、根のすべての細胞は根が接する外部溶液に囲まれていることになります。土の中にはさまざまの無機イオン類、落ち葉や動物の排泄物、死骸などが微生物で分解された有機質があります。もちろん使った農薬類もあるでしょう。これらが上に述べた外部溶液となります。
細胞壁に浸透してきた外部物質は、2つの方法で細胞膜を通過します。1つは細胞膜にある特別な装置(輸送体と呼ばれる)で選択的に細胞内に輸送されるもので、ほとんどの栄養イオン類(植物の栄養のうちの中量、微量元素)が固有の輸送体で取り込まれます。輸送体の働きはポンプのようなものです(実際イオンポンプとも言います)。非常に薄い濃度の栄養イオンをエネルギーを使って汲み上げるもので植物体のイオンが不足すれば活発になり、十分にあれば一休みするといった具合に高度に調節されています。
もう1つの方法は濃度勾配による拡散です。細胞膜はリン脂質といって脂肪酸のような脂質でできた膜です。この膜の中にいろいろなたんぱく質(イオン吸収の輸送体はその例)がはめ込まれて点在しています。水に溶けた物質は、濃度の高い方から濃度の低い方へ移動する性質があります。この時、間に膜があると移動はできませんが、油に溶けやすい(脂質に親和性―親油性―がある)物質は、脂質でできている細胞膜を通過することが出来ます。農薬には親油性を持たせたものが多くあります。根にはもともと農薬はありません。農薬を散布したりすると土の中の農薬濃度は細胞内よりも高いことになりますから、親油性のある農薬は濃度に依存して細胞膜を通って内側に入ってしまいます。水溶性の農薬は、水に溶けているので水と一緒に細胞膜を通り細胞内へ取り込まれます。脂質でできている細胞膜がなぜ水を通すか不思議ですね。
しかし、細胞膜には水を通す装置(アクアポリン)がたくさんあります。これはタンパク質でできた穴と思ってください。細胞内の水が少なくなるとこのアクアポリンという穴が開いて外にある水(水溶液)が細胞内へ移動する、水の吸収が起きることになります。水溶性の農薬があれば一緒にこの穴を通るわけです。
ついでに付け加えておきます。ある細胞から隣の細胞への物質の移動には原形質連絡が利用されます。原形質連絡についてはもう学校で習ったとは思いますが。
長くなりましたが、このような仕組みで必要な栄養も必要でない有害な農薬も取り込まれてしまうのです。
関連するものとして登録番号0059, 1464, 2386はご参考になるとおもいます。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
根はいろいろな物質を吸収しますし、それで生きていることでもありますね。そこで、根が物質を吸収する経路を辿ってみます。
植物の細胞は、細胞膜に囲まれた袋状の部分とその外側に綿布のような細胞壁があり、細胞は細胞壁で接しています。そのため根の内部にある細胞の細胞壁はすべて網状につながっていることになります。根が接する土の中にある外部溶液がそのまま細胞壁内部へ浸透します。つまり細胞壁は外部物質の透過に関しては抵抗になりません。言い換えると、根のすべての細胞は根が接する外部溶液に囲まれていることになります。土の中にはさまざまの無機イオン類、落ち葉や動物の排泄物、死骸などが微生物で分解された有機質があります。もちろん使った農薬類もあるでしょう。これらが上に述べた外部溶液となります。
細胞壁に浸透してきた外部物質は、2つの方法で細胞膜を通過します。1つは細胞膜にある特別な装置(輸送体と呼ばれる)で選択的に細胞内に輸送されるもので、ほとんどの栄養イオン類(植物の栄養のうちの中量、微量元素)が固有の輸送体で取り込まれます。輸送体の働きはポンプのようなものです(実際イオンポンプとも言います)。非常に薄い濃度の栄養イオンをエネルギーを使って汲み上げるもので植物体のイオンが不足すれば活発になり、十分にあれば一休みするといった具合に高度に調節されています。
もう1つの方法は濃度勾配による拡散です。細胞膜はリン脂質といって脂肪酸のような脂質でできた膜です。この膜の中にいろいろなたんぱく質(イオン吸収の輸送体はその例)がはめ込まれて点在しています。水に溶けた物質は、濃度の高い方から濃度の低い方へ移動する性質があります。この時、間に膜があると移動はできませんが、油に溶けやすい(脂質に親和性―親油性―がある)物質は、脂質でできている細胞膜を通過することが出来ます。農薬には親油性を持たせたものが多くあります。根にはもともと農薬はありません。農薬を散布したりすると土の中の農薬濃度は細胞内よりも高いことになりますから、親油性のある農薬は濃度に依存して細胞膜を通って内側に入ってしまいます。水溶性の農薬は、水に溶けているので水と一緒に細胞膜を通り細胞内へ取り込まれます。脂質でできている細胞膜がなぜ水を通すか不思議ですね。
しかし、細胞膜には水を通す装置(アクアポリン)がたくさんあります。これはタンパク質でできた穴と思ってください。細胞内の水が少なくなるとこのアクアポリンという穴が開いて外にある水(水溶液)が細胞内へ移動する、水の吸収が起きることになります。水溶性の農薬があれば一緒にこの穴を通るわけです。
ついでに付け加えておきます。ある細胞から隣の細胞への物質の移動には原形質連絡が利用されます。原形質連絡についてはもう学校で習ったとは思いますが。
長くなりましたが、このような仕組みで必要な栄養も必要でない有害な農薬も取り込まれてしまうのです。
関連するものとして登録番号0059, 1464, 2386はご参考になるとおもいます。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-12-11