一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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アントシアニンと糖生成の関係

質問者:   教員   化学の時間
登録番号4957   登録日:2021-01-05
 アントシアニンと糖生成の関係について疑問に思い、質問させていただきます。
 アントシアニンにより濃い紫色に色づいた果実(例:ブルーベリー)は視覚的に目立つことで鳥類に食べられやすくなり、種子を遠くまで運ぶことが可能となります。また、果実に渋みが多かったり甘味が足りなかったりすると、鳥類は吐き出してしまうため、色づいた果実は甘いものが多いです。
 すると、アントシアニンの生成と糖の生成には関係性があると思われるのですが、実際のところ、どうなのでしょうか?
 例えば、アントシアニンが生成されることで糖の生成が促進される、等。もし、関係性があるのであれば、その反応過程も知りたいです。よろしくお願いします。
化学の時間 様

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。

植物にとって、アントシアニンの合成には、素材となる有機化合物およびエネルギーの投入を必要とします。したがって、アントシアニンは、その存在が植物の生存戦略にとって有益な部位(花弁、果実など)及び時期を選んで合成されます。たとえば、ツユクサ、アジサイなどは青い花をつけますが、これは花粉を運んでくれる昆虫などに「花が成熟したので、どうぞ来てください、おいしい蜜や花粉がありますよ」という合図になります。昆虫が同じ種の他の植物個体から運んでくれた花粉は花粉管を伸ばし、その精細胞はめしべの卵細胞と合体して受精卵となり、次世代の植物のもととなります。花粉と卵細胞の遺伝子は、性染色体上の遺伝子を除けば、全体として非常によく似ていますが、部分的に差がある場合もあります。
たとえば、一方が乾燥に強い遺伝子を持つが病原菌に対する抵抗性は低い遺伝子を持ち、他方が乾燥に弱いが病原菌に対する抵抗性が高い遺伝子を持っていると、その子孫の中には、乾燥に強く、病原菌に対する抵抗性も高い子孫が生まれる確率が高くなります。全体として次世代に子孫を残す可能性が高い個体が少しでも生まれれば、長期的に見て、その植物は繁栄する可能性が高くなります。また花粉を運んでくれる動物自身あるいはその子孫にとっても利益となります。植物が花を咲かせ、他の個体から花粉を受け取るにはコストがかかりますが、長期的かつ全体的に見れば、有性生殖に多くの利点があると認められます。
植物の受精卵は花粉の精細胞と合体して胚珠となり、種子を形成して、発芽、成長、繁殖します。葉、茎、花などを作っている細胞は、全体としてみれば同一の遺伝子セットを持っていると考えられますが、成長と分化の過程で、組織や細胞ごとに遺伝子セットのうちの特定のものだけが、時期と場所を選んで使われることにより、植物は生存し、次世代の子孫を残すことができます。青い花の場合は、花弁の細胞中の液胞の中にアントシアニンという色素を合成、蓄積する遺伝子が発現し、発色に必要な他の要素と相まって、青色となります。花弁以外の細胞もアントシアニンを合成する遺伝子は持っていますが、その遺伝子の働きが抑えられているために青くはなりません。
一方、花に蜜を貯める時期は、一般的に花弁がアントシアニンを合成する時期と関連していますが、これらの遺伝子の働きが高まる仕組みと場所は違っていても、タイミングさえ合っていれば、良いということになります。
赤いリンゴ、赤いサクランボは成熟すると果皮の細胞が赤色のアントシアニンを蓄積することにより着色しますが、これを食べる動物が種子の散布を通して生育域の拡大に貢献してくれています。他の部分の細胞もアントシアニンを合成する遺伝子は持っていますが、その遺伝子は通常は働いていません。柿は熟すると赤橙色になりますが、これは色素体にカロテノイドをため込むためです。生育域の拡大に貢献してくれている動物に対する見返りとしては、糖分や花粉(タンパク質)が主なものですが、ハゼの実のように脂肪分を多く含むものもあります。
種子が熟した後に動物に食べられた種子は糞として排出され、分布域の拡大に貢献しますが、種子が未熟なうちに食べられると、このようなことは期待できません。植物のこのような応答は、種子が多様な遺伝子を持ち、さまざまな環境下で命をつなぎ、生育域を広げることに、戦略として成功した結果だということになるでしょう。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-01-18
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