一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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病原体のAvr遺伝子と植物のR遺伝子

質問者:   大学生   おう
登録番号4958   登録日:2021-01-05
病原体のAvr遺伝子と抵抗性のR遺伝子にはカギと鍵穴の関係があるとのことですが、Avr遺伝子とR遺伝子は同じ数だけ存在するということでしょうか。Avr遺伝子に対応してR遺伝子を進化させて獲得してきたのならそこには矛盾が生じませんか?
おう 様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
回答は東京大学の渡邊先生と晝間先生が協同で作成して下さいました。

【渡邊先生と晝間先生の回答】
質問ありがとうございます。ご指摘のような鍵と鍵穴の関係を想定して、多くのR遺伝子が、病原体と植物の相互作用の研究の中から発見されてきました。いくつかのR遺伝子が発見されてきてわかってきたことがあります。R遺伝子同士が興味ある配列構造、具体的には非常に似ている(保存性の高い)配列部分と、病原体ごとに反応する個性の強い配列部分とを持っていたのです。“保存性の高い”配列部分を持つ遺伝子をR遺伝子とみなしてやると、シロイヌナズナという植物のゲノム塩基配列中には、150ほどR遺伝子があることがわかりました。これらのR遺伝子が相互作用している病原体、Avr遺伝子の種類は大半がまだわかっていないのが現状です。一方でこの150という数だけでは周囲の微生物などに植物が対応できないでしょう。

Avr遺伝子―R遺伝子間の直接のせめぎ合いだけで病気が起こる起こらないが決まっているわけでなく、植物もR遺伝子以外にも遺伝子を進化させている可能性があるようです。Avrが攻撃する宿主因子をR遺伝子がモニタリングして,それに異変が起きると抵抗性が発動するというガード説と呼ばれる関係や、Avrが攻撃する宿主因子の重要なドメインをR遺伝子が持つようになり、Avrがそれにくっつくと抵抗性を発動する(Decoy)関係などもあるので、一つのR遺伝子が認識可能なAvrは多いのではないかと考えられます。実際、RRS1とRPS4の組み合わせによっては、細菌と糸状菌両方のAvrを認識できたりするようです。まだこれからも興味深い微生物―植物の関係が明らかとなると思います。


(サイエンスアドバイザー補足)
なお、上記回答の詳しい内容については、  
「新しい植物生命科学」(大森正之、渡邊雄一郎編著、講談社サイエンティフィック)(2001) の第7章
「新版 分子レベルからみた植物の耐病性」(島本 功、渡邊雄一郎、柘植尚志監修、秀潤社)(2004) の 第2章
Narusaka, M et al. "RRS1 and RPS4 provide a dual resistance-gene system against fungal and bacterial pathogens" Plant J 60(2):218-226 (2009) が参考になると思います。ご覧になって下さい。
渡邊雄一郎・晝間 敬(東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2021-01-27
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