一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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樹木の風耐性

質問者:   高校生   りょうすけ
登録番号4959   登録日:2021-01-05
こんにちわ。
何度も質問してすみません。
最近北海道で、大雪や強風にみまわれ、
シラカバ、カラマツ、等の関連してるのは、成長が早い木?の
"成木"が極端に言うとUの字に近いぐらいまで曲がってしまった木がポツポツ見られるます。
このような成木まで育った重量ある木々は元の形に戻ることはできるのでしょうか、また、これらはすべての木ではなく、単体で生育している木というよりは、林縁や林内に自生してる中のごく数本なので、太さや根のはりぐあいが足りないのが原因なのでしょうか?
りょうすけ 様

樹木について詳しく観察しておられ、度々このコーナーをご利用くださりありがとうございます。ご質問には森林総合研究所で森林災害・被害について研究されている宮下彩奈博士から下記の回答文を頂戴しました。参考になさってください。

【宮下彩奈博士からの回答】
大きく曲がってしまった幹は、自分自身や枝葉を支える強度を失ってしまっています。自然の状態で、その幹が元どおりの形に戻ることはまずないでしょう。

木の幹は、まず自分自身の幹や枝葉の重量を支える必要があり、加えて、雨や雪、風などによる荷重にも耐える必要があります。そのため、自分を支えるためだけよりも強い幹を作らなくてはなりません。しかし、頑丈な幹を作れば作るほど、枝や葉の成長にまわすエネルギーが少なくなってしまいます。植物は葉の光合成で自身が成長するエネルギーを獲得していますから、葉やそれを展開するための枝が不足すると、木の成長そのものが抑制されてしまいます。それでは、自重の何倍までくらいまで耐えられるのかというと、約5倍程度との報告が一般的です。樹木がなぜこの数値を選んだのか、理由ははっきりしていませんが、おそらく進化的に有利だったのでしょう。

しかし、全ての木でそのような安全性が保たれているわけではありません。林の木と単木で成長している木は、同じ樹種でも樹冠や幹の形状が異なるはずです。お気づきのように、林内の木はひょろひょろしていることが多いですね。幹の強度を予測するうえで、太さというのは非常に重要です。幹を円柱であると仮定したとき、同じ高さであれば、幹の強度は直径の3乗に比例します。直径が2倍あれば8倍もの強さになるのです。また、幹の曲がりやすさも重要です。同じ力がかかった時にどれだけ幹が変形するかは、材の密度に関係します。一般に、密度が大きい幹ほど曲がりにくい傾向があります。ご指摘のように、成長の早い木は、成長の遅い木に比べて、材密度の小さい場合が多いです。風のように横から力がかかった場合、曲がりやすいと大きく変形し、割り箸を曲げたときのように、幹が折れてしまう危険性も大きくなります。ただし、生の木は水分を多く含み、案外折れません。ミクロのレベルでは繊維が損傷し、元の強度は失われているのですが、見た目には単に曲がったように見えることがあります。このような現象は、比較的ゆっくりと力が加わった場合に起こります。突風のように、強い力が急激に加わった場合には折れてしまうでしょう。

木の幹を、下端が地面に固定された円柱と考えると、このような物体では地際の部分に最も大きな負荷がかかります。そのため、幹に力がかかった場合、一番危険なのは根返りです。しかし、幹に十分な強度が無い場合には、幹の方が折れたり曲がったりしてしまいます。腐朽や枝などの節、枝分かれなどは、幹の強度を低下させます。

根張りの強さは、地上部の幹の体積(胸高直径の二乗×高さ)にほぼ比例することが知られています。そのため、細い木は根の耐力も小さいと予想することができます。ただし、木の種類や土壌の種類が異なると、比例関係の傾きが変わってきます。ざっくりですが、根張りの強さは10トンもの力で引っ張らなければ倒れないような大きなものです。

木は雨・風・雪に加えて重力といった外力に常にさらされながら成長しています。多様な木の生き方を理解するためには、このような力学の分野にも興味を持っていただけると良いと思います。
宮下 彩奈(森林総合研究所 森林災害・被害研究拠点)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2021-01-15