質問者:
高校生
T
登録番号4966
登録日:2021-01-15
登録番号組織培養2
4866の質問をさせていただいた者です。前回は、私の研究に関する質問に答えていただき、誠にありがとうございました。
今回も、私の研究内容に関してアドバイスをいただきたく、質問させていただきます。
前回、コダカラベンケイソウのカルス誘導における天然物の添加効果を調べるための研究に関してアドバイスをいただきました。しかし、その後研究を進めるうちに、天然物の添加以前に、天然物無添加の培地ですらカルスが形成されないことが分かりました。(全ての培地でカルスが形成されませんでした。)
前回の質問をした当時は、ms培地のみでコダカラベンケイソウのカルスを誘導することができることを前提に、天然物の添加効果を研究してしまいました。ですので、今は、コダカラベンケイソウをカルス誘導可能な培地条件を探るための研究に切り替え、研究しています。
私の担当の先生には、ms培地のみでもカルスが形成されるはずだ、と言われているのですが、文献を調べると、ms培地に植物ホルモンやスクロースを添加する方が一般的でしたので、現在は、植物ホルモンの組み合わせと濃度を変えた培地を使用し、カルスが形成されるかを研究しています。
A 植物ホルモン、スクロースともに添加なし
B IAA 6mg/L カイネチン 0.06mg
C B+スクロース30g
D IAA 3mg カイネチン 2mg
E D+スクロース30g
F NAA 2mg BA2mg
G F+スクロース30g
H 2,4-D 1mg
I H+スクロース30g
ms培地に上記の物質を添加したA〜Iの培地を作成しました。Aは学校の先生のアドバイス通り、ms培地のみにしました。C,E,G,Iは論文を調べて、過去にニンジンやメロンなどの植物で実際にカルスが形成されたことのある培地の濃度です。B,D,F,Hは、前回のアドバイスを受けて、糖の成長阻害の影響をふまえ、C,E,G,Iの培地からスクロースを除いたものです。今回の研究でカルス誘導に成功した場合、天然物添加の研究を再開することを視野に入れているため、スクロールを除いた培地も用意しました。
現在、これらの培地に、コダカラベンケイソウの以下の部分を置床し、培養しています。
①葉の元々不定芽がついていた白い突起部分のみを切り取ったもの
② 葉の元々不定芽がついていた白い突起部分を周りの葉も含めて5mm四方程の大きさに切り取ったもの
③不定芽
A〜Iの培地を3つずつ用意してこれらを培養しています。
現在培養を開始して1週間が経ったのですが、カルスができそうにありません。③の不定芽は発根しましたが、その他に変化は見られませんでした。②は、葉の先端部分のみが透明になる変化や突起部分が肥大する変化が見受けられたものもありましたが、他に変化はありません。①はほとんど変化がありません。まだ1週間しか経っていませんが、以前天然物無添加の培地(Aと同条件)で実験した際の様子と似ているので、今回も期待が持てません。天然物無添加の培養結果ですが、しなびてしまうか、変化がないか、コンタミしてしまうかのいずれかでした。今回もきっとそうなってしまう気がします。
ここで質問です。コダカラベンケイソウのカルスを誘導することができない原因は何だと考えられますか?また、どのようにすれば、カルスが形成されるでしょうか。ぜひ、アドバイスをいただきたいです。
アドバイスをいただくにあたり、私の実験方法について、上記に記載していないことを少し補足させていただきます。
培地は寒天で固めています。培地全体の3%ほど加えています。培地はシャーレに作りました。また、培地はオートクレーブにより滅菌しています。外植体はsirvip Gという殺菌剤に浸漬した後、滅菌水で殺菌剤を洗い流してから置床しています。
培養は、前回の、明るい窓際だとポリフェノールによる酸化褐変が起こるというアドバイスを受け、暗所で培養しています。具体的にはインキュベーターで温度を管理しながら培養しています。
最後に、カルスが形成されない理由を私なりにいくつか考えたので、それも記載させていただきたいと思います。
①実験に使用した培地の植物ホルモンの濃度が、コダカラベンケイソウのカルス誘導に適していない。
(もしそうなら、どのような植物ホルモン濃度が良いのでしょうか?)
②外植体の切断により褐変が起こる。
(なぜカルスが形成されないのか自分なりに調べているうちに、イチゴ葉組織からのカルス誘導についての論文を見つけました。そこにこの褐変が原因でカルスが全く形成されないという記述がありました。この論文では、この回避策として、植物ホルモンを含む液体のms培地に浸漬するという前処理を行うと100%カルス化すると論じてありました。この前処理を行えば、コダカラベンケイソウでも100%カルス化するでしょうか...?)
③そもそもコダカラベンケイソウによるカルス誘導は不可能。
(もし、そうならどうして不可能なのでしょうか?)
以上が私の質問内容です。アドバイスをよろしくお願いします。
今回も、私の研究内容に関してアドバイスをいただきたく、質問させていただきます。
前回、コダカラベンケイソウのカルス誘導における天然物の添加効果を調べるための研究に関してアドバイスをいただきました。しかし、その後研究を進めるうちに、天然物の添加以前に、天然物無添加の培地ですらカルスが形成されないことが分かりました。(全ての培地でカルスが形成されませんでした。)
前回の質問をした当時は、ms培地のみでコダカラベンケイソウのカルスを誘導することができることを前提に、天然物の添加効果を研究してしまいました。ですので、今は、コダカラベンケイソウをカルス誘導可能な培地条件を探るための研究に切り替え、研究しています。
私の担当の先生には、ms培地のみでもカルスが形成されるはずだ、と言われているのですが、文献を調べると、ms培地に植物ホルモンやスクロースを添加する方が一般的でしたので、現在は、植物ホルモンの組み合わせと濃度を変えた培地を使用し、カルスが形成されるかを研究しています。
A 植物ホルモン、スクロースともに添加なし
B IAA 6mg/L カイネチン 0.06mg
C B+スクロース30g
D IAA 3mg カイネチン 2mg
E D+スクロース30g
F NAA 2mg BA2mg
G F+スクロース30g
H 2,4-D 1mg
I H+スクロース30g
ms培地に上記の物質を添加したA〜Iの培地を作成しました。Aは学校の先生のアドバイス通り、ms培地のみにしました。C,E,G,Iは論文を調べて、過去にニンジンやメロンなどの植物で実際にカルスが形成されたことのある培地の濃度です。B,D,F,Hは、前回のアドバイスを受けて、糖の成長阻害の影響をふまえ、C,E,G,Iの培地からスクロースを除いたものです。今回の研究でカルス誘導に成功した場合、天然物添加の研究を再開することを視野に入れているため、スクロールを除いた培地も用意しました。
現在、これらの培地に、コダカラベンケイソウの以下の部分を置床し、培養しています。
①葉の元々不定芽がついていた白い突起部分のみを切り取ったもの
② 葉の元々不定芽がついていた白い突起部分を周りの葉も含めて5mm四方程の大きさに切り取ったもの
③不定芽
A〜Iの培地を3つずつ用意してこれらを培養しています。
現在培養を開始して1週間が経ったのですが、カルスができそうにありません。③の不定芽は発根しましたが、その他に変化は見られませんでした。②は、葉の先端部分のみが透明になる変化や突起部分が肥大する変化が見受けられたものもありましたが、他に変化はありません。①はほとんど変化がありません。まだ1週間しか経っていませんが、以前天然物無添加の培地(Aと同条件)で実験した際の様子と似ているので、今回も期待が持てません。天然物無添加の培養結果ですが、しなびてしまうか、変化がないか、コンタミしてしまうかのいずれかでした。今回もきっとそうなってしまう気がします。
ここで質問です。コダカラベンケイソウのカルスを誘導することができない原因は何だと考えられますか?また、どのようにすれば、カルスが形成されるでしょうか。ぜひ、アドバイスをいただきたいです。
アドバイスをいただくにあたり、私の実験方法について、上記に記載していないことを少し補足させていただきます。
培地は寒天で固めています。培地全体の3%ほど加えています。培地はシャーレに作りました。また、培地はオートクレーブにより滅菌しています。外植体はsirvip Gという殺菌剤に浸漬した後、滅菌水で殺菌剤を洗い流してから置床しています。
培養は、前回の、明るい窓際だとポリフェノールによる酸化褐変が起こるというアドバイスを受け、暗所で培養しています。具体的にはインキュベーターで温度を管理しながら培養しています。
最後に、カルスが形成されない理由を私なりにいくつか考えたので、それも記載させていただきたいと思います。
①実験に使用した培地の植物ホルモンの濃度が、コダカラベンケイソウのカルス誘導に適していない。
(もしそうなら、どのような植物ホルモン濃度が良いのでしょうか?)
②外植体の切断により褐変が起こる。
(なぜカルスが形成されないのか自分なりに調べているうちに、イチゴ葉組織からのカルス誘導についての論文を見つけました。そこにこの褐変が原因でカルスが全く形成されないという記述がありました。この論文では、この回避策として、植物ホルモンを含む液体のms培地に浸漬するという前処理を行うと100%カルス化すると論じてありました。この前処理を行えば、コダカラベンケイソウでも100%カルス化するでしょうか...?)
③そもそもコダカラベンケイソウによるカルス誘導は不可能。
(もし、そうならどうして不可能なのでしょうか?)
以上が私の質問内容です。アドバイスをよろしくお願いします。
T さん
登録番号4866への回答を頂いた荻田信二郎先生から「現状でお答えできること」として大変詳細なご回答と沢山のご教示、アドバイスを頂きました。十分に内容を咀嚼して研究を
発展させて下さい。
先生はいつでもご対応頂けるとの有り難いご提案を頂きました。今後とも遠慮することなく質問をお送り下さい。
【荻田先生からのご回答、アドバイス】
MS培地に下記の物質を添加したA~Iの培地を作成しました。Aは学校の先生のアドバイス通り、MS培地のみにしました。C、E、G、Iは論文を調べて、過去にニンジンやメロンなどの植物で実際にカルスが形成されたことのある培地の濃度です。
B、D、F、Hは、前回のアドバイスを受けて、糖の成長阻害の影響をふまえ、C、E、G、Iの培地からスクロースを除いたものです。今回の研究でカルス誘導に成功した場合、天然物添加の研究を再開することを視野に入れているため、スクロールを除いた培地も用意しました。
A)植物ホルモン、スクロースともに添加なし。
B)IAA 6mg/L カイネチン 0.06mg.
C)B+スクロース30g.
D)IAA 3mg カイネチン 2mg.
E)D+スクロース30g.
F)NAA 2mg BA2mg.
G)F+スクロース30g.
H)2,4-D 1mg.
I)H+スクロース30g.
→ 内容拝見して端的に言うと、まず植物ホルモンにてカルス誘導の傾向を調べるときには MS培地はファーストチョイスで使いますがA 炭素源としてスクロースなしは、ほとんどの場合 反応しないです。スクロースは標準的に20g-30g/L入っています。天然物を炭素源にする、またその中に含まれる植物生長調節物質の影響を見たいというアイデアが元々でしょうからAの条件があるのでしょうね。またスクロースは炭素源ですが、様々な生体内の代謝に必須となりますので、これなしの条件でホルモンを入れて植物組織片を培養してもその応答(肥大や分裂)は見えたとしてもごくわずかだと想像します。
ですのでC、E、F、Iの条件で見えている反応をまずは評価するということに徹してみてください。(対照実験としては他の条件があってもいいのですけど)。
オーキシンとサイトカイニンの組み合わせ条件、試している濃度レンジを考えてみると C、E、Fは程度の差はあれ、概ね似ている反応が予想されますがいかがでしょうか?
また一般的にカルス化が容易なものと(植物種の場合と、ある特定の器官、組織の場合がありますが)、難培養性のものがあります。コダカラベンケイソウのみならず近縁のベンケイソウ科多肉植物のカルス誘導の論文はそれなりに出ていますので、再確認してください。
①、②、③の組織片ですが その順に組織が若い、分裂活性が高いことが予想される表皮細胞、基本組織の柔細胞、また分裂組織が含まれていますので ①<②<<③の順で 肥大、不定芽の伸長や多芽体化およびカルス化が期待されます。
肥大や不定芽の一部伸長などが見えていますか?透明になる(おそらくガラス化の類)のもサインとしては悪い話ではありません。いずれにしても写真が見られればもっと適切な判断は可能です。
Iの条件は如何でしょうか? Iの②か③で肥大が見えている、特に発根していれば根端付近(根端分裂組織とその周辺)がホルモンなしにくらべると格段に肥大していればカルス化の可能性があります。
また全体として多肉植物の柔細胞は、肥大しやすい(細胞分裂で肥大というより細胞そのものが肥大して結果として組織全体が肥大して見れる)ということですが 現在肥大しつつある組織の切断面(カミソリで薄切片を作成してサフラニンや可視化できる染色色素で染めてみる、また何もなければヨウ素ヨウ化カリウム溶液でデンプン染色をしてみる、これもなければイソジンうがい薬 ヨウ素入りのやつで十分です(組織全体も細胞壁に沿って薄く染色されるので細胞の大きさが分かります。これを比較して組織の肥大がカルス化や細胞分裂の兆候を伴っているか観察するとかしたら良いと思います)。
*――――――――――――――――――――*
補足説明を見ました。
一つ疑問があります。寒天(多分植物培養用のものか普通の試薬の寒天)を3%で加えたとありますが本当ですか? 一般に0.8-1.0%です。3%はかなり固く、これだと培地が乾燥気味になり植物組織は早めに乾いてしまうことが予想されます。褐変も進むかもしれません。そもそもですが ここが上手く行かない原因かもしれません。
ここ大事なポイントですよ。
もし現状の培地が寒天3%なら速やかに移植することをお勧めします。なお液体培地での反応については 一旦は考えなくてもいいかと思います。
暗所25℃程度は、培養の適温ですので問題ないですが葉は通常光を必要とする組織ですので、単にカルス誘導を目指すなら窓際で太陽光は強すぎます。蛍光灯の明るさ(3000-5000Lux程度、または薄暗く300Lux程度)ならばむしろ好適かもしれません。
褐変は組織だけでなく培地中にも広がります。もしシャーレを白い紙の上において茶色く見えないようであれば、当面は明、暗どちらでも変化は見えるのですが、見かけ上1週間で発根するのであれば暗黒では根がより伸長する傾向、明条件ではオーキシンが入っていれば根が枝分かれするか肥大するか、いずれにしても変化が見て取れるかと予想します。
外植体の滅菌ですが、雑菌汚染が50%程度かもっと低い? 組織が急速に褐変しないのであれば現状で構わないと思います。雑菌が多いならば、まず組織を中性洗剤、手持ちがあれば逆性洗剤(塩化ベンザルコニウム溶液 商品名だとオスバン)で各10分程度、浸漬、攪拌してからSIRVIP G処理をすれば、あまり悪影響はなく滅菌の効率は上がると思います。文面を見る限り現状で問題ないのかと思いますが。
最後に、カルスが形成されない理由を私なりにいくつか考えたので、それも記載させていただきたいと思います。
考察は大事です。以下コメントです。
①実験に使用した培地の植物ホルモンの濃度が、コダカラベンケイソウのカルス誘導に適していない。
(もしそうなら、どのような植物ホルモン濃度が良いのでしょうか?)
→ 可能性は否定しませんが 現在の種類と濃度でそんなに悪くないです。ただカルス培養に使用するオーキシンとして天然型のIAAは効果があまり期待できないかも? NAAはより効果が期待できますが、BAと同じ濃度で組み合わせていますので、ここをNAA2+-BA2と工夫する。あと2,4-Dを同じく2+-BA2とする条件を②と③の組織のみで試すのがおすすめか。
②外植体の切断により褐変が起こる。
→ これは起こり得ますが 現状観察していて1-2週間で目立った褐変がなければあまり心配しなくても良いです。
(なぜカルスが形成されないのか自分なりに調べているうちに、イチゴ葉組織からのカルス誘導についての論文を見つけました。そこにこの褐変が原因でカルスが全く形成されないという記述がありました。この論文では、この回避策として、植物ホルモンを含む液体のMS培地に浸漬するという前処理を行うと100%カルス化すると論じてありました。この前処理を行えば、コダカラベンケイソウでも100%カルス化するでしょうか...?)
③そもそもコダカラベンケイソウによるカルス誘導は不可能。
(もし、そうならどうして不可能なのでしょうか?)
→ 前述の通り 一見難培養性の植物でも肥大や発根が観察できているのであれば微量でもカルス化は可能だと思います。今の条件では難しいというだけで(あるいは微細な変化を見落としている)適切な組織を使えば細胞が肥大、一部カルス化する、というのは顕微鏡下でも見られることが多いです。まったく不可能という植物種があるとすれば明瞭な原因があることが多いです。 例えば考察のように褐変が激しいとか。
しかしながらそのような組織でカルスの安定増殖はほぼ無理でも、初期のカルス化は見られますので(少なくとも私の経験上)、上記の回答を参考に寒天濃度はしっかりチェックして実験を頑張ってください。
最後にヒントとアドバイスです:
途中経過を評価する(例えば顕微鏡で肥大の程度を経時的に写真撮影して画像解析すると肥大率が計算できます)のはとても大事ですし、それが成果になります。また現在見えている反応の中でもっとも現実的なのは、無菌環境下での発根ですのでそれを条件ごとに注視することも有効でしょう。
また表皮構造の変化(コダカラベンケイソウの葉の表皮構造は幹細胞化して不定芽を無数に分化しますが、幹細胞化するポイントがあるのでそこをまず顕微鏡観察:薄切片で分裂組織様の細胞を確認する。そしてホルモン条件ごとに、そこがどう変化するかを見る などすると短期間に細胞分裂活性化の様子を確認できるのではないでしょうか?)
登録番号4866への回答を頂いた荻田信二郎先生から「現状でお答えできること」として大変詳細なご回答と沢山のご教示、アドバイスを頂きました。十分に内容を咀嚼して研究を
発展させて下さい。
先生はいつでもご対応頂けるとの有り難いご提案を頂きました。今後とも遠慮することなく質問をお送り下さい。
【荻田先生からのご回答、アドバイス】
MS培地に下記の物質を添加したA~Iの培地を作成しました。Aは学校の先生のアドバイス通り、MS培地のみにしました。C、E、G、Iは論文を調べて、過去にニンジンやメロンなどの植物で実際にカルスが形成されたことのある培地の濃度です。
B、D、F、Hは、前回のアドバイスを受けて、糖の成長阻害の影響をふまえ、C、E、G、Iの培地からスクロースを除いたものです。今回の研究でカルス誘導に成功した場合、天然物添加の研究を再開することを視野に入れているため、スクロールを除いた培地も用意しました。
A)植物ホルモン、スクロースともに添加なし。
B)IAA 6mg/L カイネチン 0.06mg.
C)B+スクロース30g.
D)IAA 3mg カイネチン 2mg.
E)D+スクロース30g.
F)NAA 2mg BA2mg.
G)F+スクロース30g.
H)2,4-D 1mg.
I)H+スクロース30g.
→ 内容拝見して端的に言うと、まず植物ホルモンにてカルス誘導の傾向を調べるときには MS培地はファーストチョイスで使いますがA 炭素源としてスクロースなしは、ほとんどの場合 反応しないです。スクロースは標準的に20g-30g/L入っています。天然物を炭素源にする、またその中に含まれる植物生長調節物質の影響を見たいというアイデアが元々でしょうからAの条件があるのでしょうね。またスクロースは炭素源ですが、様々な生体内の代謝に必須となりますので、これなしの条件でホルモンを入れて植物組織片を培養してもその応答(肥大や分裂)は見えたとしてもごくわずかだと想像します。
ですのでC、E、F、Iの条件で見えている反応をまずは評価するということに徹してみてください。(対照実験としては他の条件があってもいいのですけど)。
オーキシンとサイトカイニンの組み合わせ条件、試している濃度レンジを考えてみると C、E、Fは程度の差はあれ、概ね似ている反応が予想されますがいかがでしょうか?
また一般的にカルス化が容易なものと(植物種の場合と、ある特定の器官、組織の場合がありますが)、難培養性のものがあります。コダカラベンケイソウのみならず近縁のベンケイソウ科多肉植物のカルス誘導の論文はそれなりに出ていますので、再確認してください。
①、②、③の組織片ですが その順に組織が若い、分裂活性が高いことが予想される表皮細胞、基本組織の柔細胞、また分裂組織が含まれていますので ①<②<<③の順で 肥大、不定芽の伸長や多芽体化およびカルス化が期待されます。
肥大や不定芽の一部伸長などが見えていますか?透明になる(おそらくガラス化の類)のもサインとしては悪い話ではありません。いずれにしても写真が見られればもっと適切な判断は可能です。
Iの条件は如何でしょうか? Iの②か③で肥大が見えている、特に発根していれば根端付近(根端分裂組織とその周辺)がホルモンなしにくらべると格段に肥大していればカルス化の可能性があります。
また全体として多肉植物の柔細胞は、肥大しやすい(細胞分裂で肥大というより細胞そのものが肥大して結果として組織全体が肥大して見れる)ということですが 現在肥大しつつある組織の切断面(カミソリで薄切片を作成してサフラニンや可視化できる染色色素で染めてみる、また何もなければヨウ素ヨウ化カリウム溶液でデンプン染色をしてみる、これもなければイソジンうがい薬 ヨウ素入りのやつで十分です(組織全体も細胞壁に沿って薄く染色されるので細胞の大きさが分かります。これを比較して組織の肥大がカルス化や細胞分裂の兆候を伴っているか観察するとかしたら良いと思います)。
*――――――――――――――――――――*
補足説明を見ました。
一つ疑問があります。寒天(多分植物培養用のものか普通の試薬の寒天)を3%で加えたとありますが本当ですか? 一般に0.8-1.0%です。3%はかなり固く、これだと培地が乾燥気味になり植物組織は早めに乾いてしまうことが予想されます。褐変も進むかもしれません。そもそもですが ここが上手く行かない原因かもしれません。
ここ大事なポイントですよ。
もし現状の培地が寒天3%なら速やかに移植することをお勧めします。なお液体培地での反応については 一旦は考えなくてもいいかと思います。
暗所25℃程度は、培養の適温ですので問題ないですが葉は通常光を必要とする組織ですので、単にカルス誘導を目指すなら窓際で太陽光は強すぎます。蛍光灯の明るさ(3000-5000Lux程度、または薄暗く300Lux程度)ならばむしろ好適かもしれません。
褐変は組織だけでなく培地中にも広がります。もしシャーレを白い紙の上において茶色く見えないようであれば、当面は明、暗どちらでも変化は見えるのですが、見かけ上1週間で発根するのであれば暗黒では根がより伸長する傾向、明条件ではオーキシンが入っていれば根が枝分かれするか肥大するか、いずれにしても変化が見て取れるかと予想します。
外植体の滅菌ですが、雑菌汚染が50%程度かもっと低い? 組織が急速に褐変しないのであれば現状で構わないと思います。雑菌が多いならば、まず組織を中性洗剤、手持ちがあれば逆性洗剤(塩化ベンザルコニウム溶液 商品名だとオスバン)で各10分程度、浸漬、攪拌してからSIRVIP G処理をすれば、あまり悪影響はなく滅菌の効率は上がると思います。文面を見る限り現状で問題ないのかと思いますが。
最後に、カルスが形成されない理由を私なりにいくつか考えたので、それも記載させていただきたいと思います。
考察は大事です。以下コメントです。
①実験に使用した培地の植物ホルモンの濃度が、コダカラベンケイソウのカルス誘導に適していない。
(もしそうなら、どのような植物ホルモン濃度が良いのでしょうか?)
→ 可能性は否定しませんが 現在の種類と濃度でそんなに悪くないです。ただカルス培養に使用するオーキシンとして天然型のIAAは効果があまり期待できないかも? NAAはより効果が期待できますが、BAと同じ濃度で組み合わせていますので、ここをNAA2+-BA2と工夫する。あと2,4-Dを同じく2+-BA2とする条件を②と③の組織のみで試すのがおすすめか。
②外植体の切断により褐変が起こる。
→ これは起こり得ますが 現状観察していて1-2週間で目立った褐変がなければあまり心配しなくても良いです。
(なぜカルスが形成されないのか自分なりに調べているうちに、イチゴ葉組織からのカルス誘導についての論文を見つけました。そこにこの褐変が原因でカルスが全く形成されないという記述がありました。この論文では、この回避策として、植物ホルモンを含む液体のMS培地に浸漬するという前処理を行うと100%カルス化すると論じてありました。この前処理を行えば、コダカラベンケイソウでも100%カルス化するでしょうか...?)
③そもそもコダカラベンケイソウによるカルス誘導は不可能。
(もし、そうならどうして不可能なのでしょうか?)
→ 前述の通り 一見難培養性の植物でも肥大や発根が観察できているのであれば微量でもカルス化は可能だと思います。今の条件では難しいというだけで(あるいは微細な変化を見落としている)適切な組織を使えば細胞が肥大、一部カルス化する、というのは顕微鏡下でも見られることが多いです。まったく不可能という植物種があるとすれば明瞭な原因があることが多いです。 例えば考察のように褐変が激しいとか。
しかしながらそのような組織でカルスの安定増殖はほぼ無理でも、初期のカルス化は見られますので(少なくとも私の経験上)、上記の回答を参考に寒天濃度はしっかりチェックして実験を頑張ってください。
最後にヒントとアドバイスです:
途中経過を評価する(例えば顕微鏡で肥大の程度を経時的に写真撮影して画像解析すると肥大率が計算できます)のはとても大事ですし、それが成果になります。また現在見えている反応の中でもっとも現実的なのは、無菌環境下での発根ですのでそれを条件ごとに注視することも有効でしょう。
また表皮構造の変化(コダカラベンケイソウの葉の表皮構造は幹細胞化して不定芽を無数に分化しますが、幹細胞化するポイントがあるのでそこをまず顕微鏡観察:薄切片で分裂組織様の細胞を確認する。そしてホルモン条件ごとに、そこがどう変化するかを見る などすると短期間に細胞分裂活性化の様子を確認できるのではないでしょうか?)
荻田 信二郎(県立広島大学大学院総合学術研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2021-02-08
今関 英雅
回答日:2021-02-08