一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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樹木の形成層の仕組みについて

質問者:   高校生   りょうすけ
登録番号4967   登録日:2021-01-19
こんにちわ

木の形成層は、ぐるりと一回り樹皮を剥ぎ取ったられてらそれ以上上が枯れてしまうようなのですが、反面、もしくは、少しでも剥ぎ取られず一部残っていたら枯れることはないようなのですが、
形成層にある、樹木の栄養や水分を送る器官は、
どのような形で張り巡らされてるのでしょうか、
りょうすけさん

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。りょうすけさんは高校生ということですが、高校の生物学の教科書には幹/茎や根の構造のことなどについては記載がないのかな? 図解できると一番説明し易いので、学校の図書室か、近くの図書館で生物資料図説などの参考書を見つけて参照してください。
植物体内における水分や栄養分(光合成産物)の輸送は基本的に維管束組織を通して行われます。維管束は根から葉まで繋がっています。維管束の主要構成要素は師部と木部で、師部は師管、師部柔組織、師部繊維などからなり、木部は道管あるいは仮道管、木部樹組織、木部繊維からなっています。前者は光合成産物の輸送にあずかり、後者は水とそれに溶けている無機塩類の輸送を担っています。茎にはその他に様々な細胞があります。また、草本植物、木本植物、裸子植物、被子植物などでそれぞれ維管束系の配置や構成細胞、組織に違いがあります。
ご質問は樹木の事のようですが、質問の記述が曖昧ですのでその主旨がはっきり汲み取れません。ここでは以下のように理解して、被子植物の樹木の一般的な例について説明いたしますが。
「樹の幹の樹皮を環状に剥ぎ取ってしまう(環状剥皮という)とその樹は枯れてしまうが、樹皮が一部残っていると枯れない。それはなぜか」
まず成樹の幹の構造を全体的に見てみましょう。樹幹の地上部先端は茎頂といい、そこには頂端分裂組織があって細胞分裂が活発に行われています。そこで作られた細胞群はさらに分裂を繰り返し、箇々の細胞のサイズを増しながら下方へ押しやられ、細胞分化が起きて一次組織ができます。外側から中心に向かって表皮、皮層、一次維管束と髓の各組織が作られます。一次維管束は前形成層の働きで髓側に一次(原生)木部と皮層側に一次(原生)師部ができた、間に前形成層という隔板があるような作りで、下方へ押しやられるにしたがって、隣り合う一次維管束の前形成層どうしが繋がって束間形成層となります。 この時期の幹(一次組織)を輪切りにしてドーナッツ状の二重円で模式図的に説明すると、外円の縁は表皮、内円の縁が束間形成層、外円と内円の間が皮層、内円内部が髓に相当します。そして内円の縁にそろばん玉のようは独立した維管束が数珠状に配置されています。この後、年次が進むにしたがって形成層の分裂活動が盛んになり、内側に二次木部組織がつくられて行って、樹幹の成長の特徴である肥大成長が始まります。形成層の外側には師部が作られますが、内部の木部の拡大とともに外側へ押しやられていきます。皮層は成長できないので、裂けて剥離脱落してしまいます。成木になると二次師部の外側にコルク形成層が現れて一番外側に外樹皮が形成されます。普通樹皮という場合は二次師部(内樹皮)と外樹皮を合わせたものを言います。樹幹は毎年このようにして肥大していきますが。樹幹を輪切りにすると、多重円の構造になっていますが、これは形成層の二次木部形成活動の毎年ごとの区切りを示しています。これが年輪です(登録番号4259をご覧ください)形成層はこのように木部と師部を作り出していますが、その他に放射組織も形成します。放射組織は樹幹の横断面で放射状に配列する柔組織です。柔組織は生きている細胞です。
さて、環状剥皮とは上記で説明した樹幹の外側の樹皮(内樹皮と外樹皮)を幹の周囲に沿って剝ぎ取ることです。これによって師部(内樹皮)が失われますので、植物体は環状剥皮をした箇所より下部には栄養分(光合成産物)の転流が行われないことになってしまいます。従って地下部(根系)の成長は生命活動維持は大きな影響を受けることになります。場合によっては時間の経過とともに衰弱して死んでしまうことになりますが、もともと樹勢の良い樹であれば、傷組織の癒合が行われて師部の再生は起こるでしょう。しかし、剥皮の範囲が著しく大きければ致死的ダメージとなるでしょうし、剥皮によって形成層も削ぎとってしまうと致命的だと思います。他方、環状剥皮という処置は果樹栽培などで果樹の生産を上げる手段の一つとしても利用されています。ネット上たくさんの例が紹介されていますので検索してみてください。
ところで、環状剥皮を部分的に行って、ごく一部だけを残したとします。通常維管束は樹幹の軸に沿って配置されていますから、つまり横方向へ伸びているわけではありませんから、剥皮した部分は上からの養分の供給を受けられないのではないかという疑問を持たれたのでしょうか。師管(生きている細胞)を運ばれてきた転流物は前述の放射柔組織を通って横方向へも配分されます。
なお、水分は木部を通って輸送されます。また、細胞と細胞の間も通ることができますので、植物体内ではかなり自由に移動できます。
環状剥皮については関連の質問/回答がありますので参考にしてください。(登録番号2862)
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-02-05