質問者:
一般
タンポポ7007
登録番号4973
登録日:2021-01-25
私は長年に亘って、練馬区にある都立光が丘公園「カントウタンポポ自生地」でカントウタンポポと野草の保護活動を行っています。ところが、一時期までは春4月にカントウタンポポがびっしりと言えるに近い状態にありましたが、10年ぐらい前から年々減少してきてしまいました。原因として考えられるのは、公園樹木が年々成長して日照がかなり遮られるようになってきたことです。もうひとつ、もしかしたら影響があるのではないかと考えるのが、ここ10年程の間の変化としては、自生地内にノビルがどんどんはびこるようになってきたことです。抜いても抜いても追いつきません。ノビルには、カントウタンポポに対するアレロパシーのような影響をもたらす可能性があるのでしょうか。
みんなのひろば
ノビルにアレロパシーがありますか(タンポポに対する影響)
タンポポ7007様
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
回答は、植物の生態の研究が専門の小川潔博士(東京学芸大学名誉教授)にお願いしました。
【小川先生からの回答】
光が丘公園のカントウタンポポ群落の保全活動には、私も活動の初期に呼ばれて生育地の環境のあり方や種子からの増やし方を伝えたことがあります。また、現在もメンバーの団体と連絡を取っていますが、ノビルの件は気にしていませんでした。
光が丘公園におけるカントウタンポポの衰退の原因として、状況証拠としては、「公園樹木が年々成長して日照がかなり遮られるようになってきたこと」で説明できると思います。1970年代に東京都文京区の東京大学付属小石川植物園内でカントウタンポポの個体群動態を調べていた時も、当初の3~4年は同一区画内で新生実生がどんどん増えていきましたが、その後新生実生数が減少し、全体の個体数も減少していきました。これは、ちょうど、上を覆う樹木の被度が増していったのと符合していました(定量的に正確な被度のデータはとっていませんが)。当然のことながら、地表近くの草本が密生していれば、光を受けることができず、下になった植物は枯れてしまいます。タンポポは生長した後も根出葉なので背が低く、雑草が生い茂った下では親株も実生も枯れてしまいます。雑草が密生していると、地表近くは湿気で腐ってしまうこともあります。ただ、カントウタンポポは実生発芽時の温度反応では、春から夏には20℃以上の温度では発芽しないので、雑草との夏の競合を避けることができます。親株も夏に葉を落とし見かけの休眠状態になります。ノビルが密生した状態は冬から春というカントウタンポポの生育期に競合しやすいかも知れません。一方、東京のある市には、夏に葉を落とすカントウタンポポの群落が戦後に水田を農業用の雑木林に転換した落葉樹林の下にありました。ここでは、次世代は増えないのですが親株は10年以上生きていたようです。
アレロパシーに関しては、かつてセイヨウタンポポが在来種タンポポをアレロパシーで駆逐しているとの話がありました。北米大陸のチャパラル低木林にある灌木が物質を出して他の植物を排除して生育地を広げているという報告が1960年代末頃に出ました。1972年に日本のある大学教授がM新聞の在来種・外来種タンポポについてのインタビューに答えて、外国ではチャパラルの事例があると思い付き的に話したところ、記者がこれを取り上げ、多分編集者がこの部分をクローズアップして記事にしました。教授はこういうこともあるけれど・・・という程度にしか話題にしなかったのですが、いつしかマスコミではセイヨウタンポポのアレロパシー説が拡大していきました。その後、東京大学の生態学研究室に内地留学したこともある農業高校の一教員が1970年代半ばに、両種を同じ植木鉢に入れて栽培し、両種とも健全に育ったと言っていました。タンポポ同士に関しては、その後アレロパシーの話は聞きません。
体外に物質を出すのがアレロパシーだと思いますが、体内では、カントウタンポポなどの自家不和合性は柱頭に付いた自分の花粉からの花粉管成長を阻害して受精を妨害するようです。名古屋大学の西田佐知子博士は、セイヨウタンポポと在来種タンポポとの雑種形成(精子競争)の研究をしていて、在来種のトウカイタンポポの生育地ではセイヨウタンポポとの雑種が少ないといいます。セイヨウタンポポの花粉はトウカイタンポポにはかかりにくいという考えで、自家不和合と同様の反応がトウカイタンポポではセイヨウタンポポの花粉に対しても起こっているのかも知れません。
アレロパシーを証明するには、一方で物質を特定すること、もう一方でノビルと別種の植物を閉鎖系で一緒に栽培して相手の植物の生育不良を確かめる必要があると思います。光が丘公園の保護団体で、カントウタンポポについでこのような研究がされている可能性はありますが私は把握していません。
暫定的結論としてカントウタンポポの衰退については、他の植物による被陰がまず考えられ、アレロパシーの可能性もあるかもしれませんが、私はどちらについても、もきちんとした調査はしていません。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
回答は、植物の生態の研究が専門の小川潔博士(東京学芸大学名誉教授)にお願いしました。
【小川先生からの回答】
光が丘公園のカントウタンポポ群落の保全活動には、私も活動の初期に呼ばれて生育地の環境のあり方や種子からの増やし方を伝えたことがあります。また、現在もメンバーの団体と連絡を取っていますが、ノビルの件は気にしていませんでした。
光が丘公園におけるカントウタンポポの衰退の原因として、状況証拠としては、「公園樹木が年々成長して日照がかなり遮られるようになってきたこと」で説明できると思います。1970年代に東京都文京区の東京大学付属小石川植物園内でカントウタンポポの個体群動態を調べていた時も、当初の3~4年は同一区画内で新生実生がどんどん増えていきましたが、その後新生実生数が減少し、全体の個体数も減少していきました。これは、ちょうど、上を覆う樹木の被度が増していったのと符合していました(定量的に正確な被度のデータはとっていませんが)。当然のことながら、地表近くの草本が密生していれば、光を受けることができず、下になった植物は枯れてしまいます。タンポポは生長した後も根出葉なので背が低く、雑草が生い茂った下では親株も実生も枯れてしまいます。雑草が密生していると、地表近くは湿気で腐ってしまうこともあります。ただ、カントウタンポポは実生発芽時の温度反応では、春から夏には20℃以上の温度では発芽しないので、雑草との夏の競合を避けることができます。親株も夏に葉を落とし見かけの休眠状態になります。ノビルが密生した状態は冬から春というカントウタンポポの生育期に競合しやすいかも知れません。一方、東京のある市には、夏に葉を落とすカントウタンポポの群落が戦後に水田を農業用の雑木林に転換した落葉樹林の下にありました。ここでは、次世代は増えないのですが親株は10年以上生きていたようです。
アレロパシーに関しては、かつてセイヨウタンポポが在来種タンポポをアレロパシーで駆逐しているとの話がありました。北米大陸のチャパラル低木林にある灌木が物質を出して他の植物を排除して生育地を広げているという報告が1960年代末頃に出ました。1972年に日本のある大学教授がM新聞の在来種・外来種タンポポについてのインタビューに答えて、外国ではチャパラルの事例があると思い付き的に話したところ、記者がこれを取り上げ、多分編集者がこの部分をクローズアップして記事にしました。教授はこういうこともあるけれど・・・という程度にしか話題にしなかったのですが、いつしかマスコミではセイヨウタンポポのアレロパシー説が拡大していきました。その後、東京大学の生態学研究室に内地留学したこともある農業高校の一教員が1970年代半ばに、両種を同じ植木鉢に入れて栽培し、両種とも健全に育ったと言っていました。タンポポ同士に関しては、その後アレロパシーの話は聞きません。
体外に物質を出すのがアレロパシーだと思いますが、体内では、カントウタンポポなどの自家不和合性は柱頭に付いた自分の花粉からの花粉管成長を阻害して受精を妨害するようです。名古屋大学の西田佐知子博士は、セイヨウタンポポと在来種タンポポとの雑種形成(精子競争)の研究をしていて、在来種のトウカイタンポポの生育地ではセイヨウタンポポとの雑種が少ないといいます。セイヨウタンポポの花粉はトウカイタンポポにはかかりにくいという考えで、自家不和合と同様の反応がトウカイタンポポではセイヨウタンポポの花粉に対しても起こっているのかも知れません。
アレロパシーを証明するには、一方で物質を特定すること、もう一方でノビルと別種の植物を閉鎖系で一緒に栽培して相手の植物の生育不良を確かめる必要があると思います。光が丘公園の保護団体で、カントウタンポポについでこのような研究がされている可能性はありますが私は把握していません。
暫定的結論としてカントウタンポポの衰退については、他の植物による被陰がまず考えられ、アレロパシーの可能性もあるかもしれませんが、私はどちらについても、もきちんとした調査はしていません。
小川 潔(東京学芸大学名誉教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2021-02-17
櫻井 英博
回答日:2021-02-17