質問者:
高校生
眠兎
登録番号4974
登録日:2021-01-26
研究しているものですが、倍数体について、詳しく理解ができていないので質問させて頂きます。みんなのひろば
5倍体とは何ですか?
5倍体はなぜ不稔性なのですか。
3倍体と5倍体は構造的に同じなのでしょうか?
また、3倍体の種無しスイカでも、なぜ種子ができているものもあるのでしょうか。
眠兎様
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。倍数体の事についてはこの回答でもコメントされているように、本コーナーではすでに詳しい解説がなされています。ですので是非そちらをまず読んでください。「3倍体の種無しスイカでも、なぜ種子ができているものもあるのか」にも答えています。今回は5倍体についての質問でしたので、自然界にあって繁殖しているシロバナタンポポという特異な5倍体植物の研究をされた新潟大学名誉教授の森田竜義先生にお願いして、タンポポを例として回答していただきました。
【森田先生の回答】
5倍体とは「5組の染色体組をもつ生物」です。染色体組というのは「生存に必要な遺伝子をすべて含む一揃いの染色体」ですが、普通の生物は体細胞に染色体組が2組あり、2倍体といいます。3倍体以上を倍数体と呼びます。自然界では5倍体は少数派で、わずかな例しか知られていません。
私が研究してきたタンポポ属の場合、在来種カントウタンポポの染色体数は16本ですが、核型の研究により8本の染色体からなる染色体組が2組あることが知られているので、2倍体ということになります。外来種セイヨウタンポポは基本的に3倍体(染色体数は24本=8本×3組)で、西日本に多い在来種シロバナタンポポが5倍体(染色体数は40本=8本×5組)です。
減数分裂の際、相同染色体が対合して二価染色体となった後、再び分かれて両極に引かれていくので、配偶子が相同染色体を1本ずつ受け継ぐことはご存知だと思います。この仕組みは基本的に2倍体の話で、2組の染色体組に相同染色体が1本ずつあることにより可能になるのです。4倍体の場合も多少不規則になりますが、相同染色体が偶数個あるので、減数分裂は可能です。
ところが3倍体や5倍体のような奇数倍数体植物では、相同染色体が奇数個のため、対合がうまくいかず不稔性となり種子ができません。詳しくはこの広場の「どうしてですか」(登録番号0518)、「種子なしスイカの減数分裂について」(登録番号4590)をお読みください。
タンポポ属の場合は例外的で、2倍体は有性生殖をおこないますが、奇数倍数体も偶数倍数体も無融合生殖(アポミクシス)という雌しべだけで(受精なしに)種子をつくる方法で繁殖するのです。減数分裂を途中でやめ、非減数性の卵細胞がそのまま胚発生することにより、不稔性を回避しています。そのため、無融合生殖による子どもの遺伝子は母親のコピーということになります。調べたところ、5倍体であるシロバナタンポポはすべての個体が遺伝的に同じ、つまり1個のクローンでした。
無融合生殖者であることと矛盾するようですが、シロバナタンポポは4倍体種ケイリンシロタンポポと2倍体種カンサイタンポポの雑種起原と推定しています。ケイリンシロタンポポも無融合生殖者で非減数性の卵細胞をつくります。歴史的に1回だけ起こった稀な現象と考えられますが、この非減数性の卵細胞が2倍体種の精細胞と受精して5倍体のシロバナタンポポができたと考えないと、多くの事実の説明がつかないのです。
有性生殖をおこなうスイカのような植物では、4倍体をさらにコルヒチン処理して8倍体を作ることができれば、8倍体と2倍体の交配により5倍体が生じる可能性があるのではないかと考えています。
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。倍数体の事についてはこの回答でもコメントされているように、本コーナーではすでに詳しい解説がなされています。ですので是非そちらをまず読んでください。「3倍体の種無しスイカでも、なぜ種子ができているものもあるのか」にも答えています。今回は5倍体についての質問でしたので、自然界にあって繁殖しているシロバナタンポポという特異な5倍体植物の研究をされた新潟大学名誉教授の森田竜義先生にお願いして、タンポポを例として回答していただきました。
【森田先生の回答】
5倍体とは「5組の染色体組をもつ生物」です。染色体組というのは「生存に必要な遺伝子をすべて含む一揃いの染色体」ですが、普通の生物は体細胞に染色体組が2組あり、2倍体といいます。3倍体以上を倍数体と呼びます。自然界では5倍体は少数派で、わずかな例しか知られていません。
私が研究してきたタンポポ属の場合、在来種カントウタンポポの染色体数は16本ですが、核型の研究により8本の染色体からなる染色体組が2組あることが知られているので、2倍体ということになります。外来種セイヨウタンポポは基本的に3倍体(染色体数は24本=8本×3組)で、西日本に多い在来種シロバナタンポポが5倍体(染色体数は40本=8本×5組)です。
減数分裂の際、相同染色体が対合して二価染色体となった後、再び分かれて両極に引かれていくので、配偶子が相同染色体を1本ずつ受け継ぐことはご存知だと思います。この仕組みは基本的に2倍体の話で、2組の染色体組に相同染色体が1本ずつあることにより可能になるのです。4倍体の場合も多少不規則になりますが、相同染色体が偶数個あるので、減数分裂は可能です。
ところが3倍体や5倍体のような奇数倍数体植物では、相同染色体が奇数個のため、対合がうまくいかず不稔性となり種子ができません。詳しくはこの広場の「どうしてですか」(登録番号0518)、「種子なしスイカの減数分裂について」(登録番号4590)をお読みください。
タンポポ属の場合は例外的で、2倍体は有性生殖をおこないますが、奇数倍数体も偶数倍数体も無融合生殖(アポミクシス)という雌しべだけで(受精なしに)種子をつくる方法で繁殖するのです。減数分裂を途中でやめ、非減数性の卵細胞がそのまま胚発生することにより、不稔性を回避しています。そのため、無融合生殖による子どもの遺伝子は母親のコピーということになります。調べたところ、5倍体であるシロバナタンポポはすべての個体が遺伝的に同じ、つまり1個のクローンでした。
無融合生殖者であることと矛盾するようですが、シロバナタンポポは4倍体種ケイリンシロタンポポと2倍体種カンサイタンポポの雑種起原と推定しています。ケイリンシロタンポポも無融合生殖者で非減数性の卵細胞をつくります。歴史的に1回だけ起こった稀な現象と考えられますが、この非減数性の卵細胞が2倍体種の精細胞と受精して5倍体のシロバナタンポポができたと考えないと、多くの事実の説明がつかないのです。
有性生殖をおこなうスイカのような植物では、4倍体をさらにコルヒチン処理して8倍体を作ることができれば、8倍体と2倍体の交配により5倍体が生じる可能性があるのではないかと考えています。
森田 竜義(新潟大学名誉教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2021-02-20
勝見 允行
回答日:2021-02-20