一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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イネの品種について

質問者:   一般   野いちご
登録番号4980   登録日:2021-02-08
日本の歴史の本を読んでいて不思議に思ったのですが、古代の木簡等によるイネの種子札には多数のイネの品種名が見られます。この品種の多さは偶然見つかったものなのか、それとも人の手で品種改良が行われた結果なのでしょうか。
だいたいイネの品種改良という事はいつの時代から行われたものなのでしょうか。

よろしくお願い致します。
野いちご 様

植物Q&A のコーナーを利用下さりありがとうございます。

イネ科イネ属(Oryza)の野生植物は、熱帯に24種が分布しています。そのうち一般に食用として利用されているのは、イネ(アジアイネ)とアフリカイネですが、アフリカイネは栽培が西アフリカの一部に限られ、現在はその利用も減少しつつあり、栽培されているイネはほとんどアジアイネです。
水田稲作は、考古学的発掘作業で水田遺構が多数見つかったことから、8000年ほど前に中国の長江の中~下流域で始まったと考えられています。その栽培技術は、日本には縄文時代後期~弥生時代初期(2500年ほど前)に九州北部(福岡の板付遺跡)に伝来し、数百年後には東北地方(垂柳遺跡の水田遺構)まで広がったと思われます。その栽培技術は日本だけでなく、世界中の熱帯、温帯に広く伝えられています。したがって、栽培環境は気温の高い熱帯、季節のある温帯(光周性の獲得)、水の少ない乾燥地帯(陸稲地帯)、水没するような環境(浮稲地帯)など多種多様です。また、栽培様式も管理の行き届いた水田、焼き畑や段々畑といろいろです。さらに、イネを栽培する民族も多様で、調理方法や食味の好みも様々です。形態的に見ても頴果(米の粒)の大きさや数(多収性)、植物体の背丈の高さ(矮性:耐風性)や分けつ数などに特性のあるものが見られます。果皮や種皮に色のついたものもあります(黒米、赤米)。生理学的にも耐冷性、耐病性などに特性のあるものがみられます。8000年という長い栽培の歴史の中で、多様な自然環境、栽培様式、利用法などに適した性質を持ったイネや形態的、生理学的に特性をもつものが選抜されてきた結果、それらの性質が固定され多数の品種が生まれたと考えられます。全世界の品種総数は数万に及ぶとみられ、特に古くからの栽培地である中国やインドには数千の品種が記録されています。また、日本でも古来からの品種を総計すれば2000に達すると言われています。 
木簡に多数の品種名が書かれているのを不思議に思われたようですが、木簡が利用された奈良、平安時代にはいろいろな特性をもった多様なイネの品種が栽培されており、現在栽培されている品種の数よりはるかに多かったと考えられています。正倉院宝物の薬草種子の中には外来のものも含まれていることから考えて、奈良、平安時代に栽培されていたイネの品種には、日本で選抜されたものだけでなく、外来の品種も含まれていたかもしれません。また、現在栽培されている品種数が少ないのは、コシヒカリとかササニシキとか限られた品種のみが栽培されることが多いためです。
イネの品種改良が行われ始めた時代ですが、交雑育種ということに限れば、日本ではイネの人工交配に初めて成功したのが1893年ですから、比較的最近ということになります。人為的に目的の性質をもったイネを選抜するということでしたら、イネの栽培が始まってからずっと行われてきたということになるでしょう。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-02-22
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