一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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根粒菌の内部構造

質問者:   会社員   たろう
登録番号4982   登録日:2021-02-09
根粒菌の内部には、植物の栄養になる成分が貯蔵されているのでしょうか。
作物の栽培後期には、根粒は内部の養分が消費され空っぽになる(スカスカになる)、と聞きました。しかし、テキスト等調べると、根粒は細胞や根粒菌自体がメインとの記載があり、本当なのかよくわかりません。
内部の養分が消費されたからスカスカになったのか、根粒菌自体が死滅し根粒が機能しなくなった結果スカスカになったのか、、スカスカになった原因として考えられる理由も合わせてご教示いただけますと嬉しいです。
たろう さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
根粒菌と宿主植物(主にマメ科植物)との共生による窒素固定の研究は、近年著しく盛んになりめざましい進展があります。地中に生育する根粒菌は宿主の根毛から侵入して宿主皮層細胞内に入り細胞分裂を誘導して根粒を形成します。根粒細胞の中でバクテロイドと言う窒素固定に専念する特殊な形態をもつ構造となります。宿主細胞内にあるミトコンドリアや葉緑体と同じように、宿主細胞の細胞質に直接接することになります。ここで、気中の窒素をニトロゲナーゼと言う酵素で還元してアンモニアを生成します。アンモニアはアンモニアイオンとなって植物細胞に直接吸収されます。
したがって、根粒内で別の窒素化合物に変換して蓄積するものではありません。バクテロイドへ分化した根粒菌の生活は、宿主植物から供給される栄養(主にリンゴ酸)で保証されています。つまり、宿主植物からリンゴ酸をもらって生存し、そのエネルギーを使って窒素をアンモニアに還元してアンモニアを宿主植物に提供する、と言う共生関係にあります。ですから、根粒の形成は、周囲(根圏)ある窒素源の多寡によって巧みに調節されています。例えば、窒素肥料を与えると宿主は根粒菌に感染しても根粒をつくりません(窒素固定をしません)。
「作物の栽培後期には、根粒は内部の養分が消費され空っぽになる(スカスカになる)」のは、根粒内の蓄積栄養が消費された結果(発芽時の子葉や胚乳のように)ではなく、宿主が種子形成を完成させて栄養成長が停止したため根粒組織が老化して崩壊したためです。バクテロイドは元の単生生活の根粒菌となり地中に戻ります。
この植物Q&Aで「根粒菌」「窒素固定」などで検索すると違った点からの解説がありますので参考になさって下さい。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-02-18