一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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紅葉と肥料の関係について

質問者:   会社員   山口
登録番号4990   登録日:2021-02-17
モミジの紅葉は、同じ地域でも肥料の多寡によってスピードや色付きが変わると聞きました。
そこで、窒素、リン酸、カリウムなどの肥料がどのように影響して紅葉のスピードが変わるのかが気になり質問させていただきました。
登録番号0388は読んでおり、紅葉に関しての最低限の知識はあると思っています。
山口さん

みんなの広場、植物Q&Aへようこそ。質問を歓迎します。
紅葉期の葉の色と与える栄養素との関係を調べた研究に関する報告は、それほど多くないようですが、その中から、国立研究開発法人森林総合研究所関西支所土壌研究室西本哲昭氏の報告「モミジの色を決めるもう一つの環境要因 = 土の中の養分」の要点をご紹介します:
『カエデの中でも最も一般的なイロハモミジを例にして、葉の色が栄養状態でどのように変わるか、実験してみました。イロハモミジにも園芸品種がたくさんあって、それぞれ特徴ある色づきをしますが、実験には、最も一般的に見られる野性のものを使いました。また、実験がやりやすいように苗木を対象にして、一定の養分を欠除して水耕栽培をしました。
養分が十分ある正常なときの様子を見てみましょう。イロハモミジの葉には光合成を担うクロロフィル(緑の色素)とカロチノイド(黄色い色素)がほぼ一定の割合で含まれており、初秋までは黄緑色をしています。秋が深まると次第に光合成をしなくなるので、これらの色素は要らなくなり、クロロフィルから先に壊れ始めます。また、光合成された糖が枝や幹へ還流しなくなり、葉に溜まった糖からアントシアニン(赤い色素)が作られてきます。そのためこの時期には、これら三つの色素が混在することになります。クロロフィルやアントシアニンが多いと色は暗くなり、また、両者が混在すると色はくすみますので、この時期の葉は暗く、くすんだ色になります。色彩計で測ると色み(色相)は「黄」と表示されますが、暗く、くすんでいますので人の目にはいわゆる黄(明るく、鮮やかな黄)には見えません。次いで、さらにクロロフィルが減ってくるとアントシアニンやカロチノイドが目立つようになり、明るく鮮やかな赤になっていきます。
それでは、窒素が足りないときはどうでしょう。このときはクロロフィルが少いうえ、早くから壊れ始めます。そのため早くからカロチノイドによる黄が目立つようになります。次いでアントシアニンも早くからたくさん作られ、赤くなっていきます。この場合クロロフィルが少ないので明るく鮮やかな色になります。したがってこの窒素欠乏のときは正常な苗とは違い、いわゆる黄の段階を経て、明るく、鮮やかな赤になります。なおこの場合、クロロフィルが少ないため落葉も早く、樹木の成長も良くありません。』
(櫻井附記:なお、この報告書にはリン、マグネシウム、カリウムの影響についても調べて報告しています)
『今回の実験でとりあげた養分のうち、窒素、リン、マグネシウムは一般に土壌に不足がちです。これら(特に、窒素)が少ないとき、イロハモミジは色づきが良く、人の目には美しく見えます。しかし、養分不足ということは樹木の成長にはマイナス要因です。モミジの美しい場所が必ずしもモミジ自身にとって望ましい場所とは限らないようです。
庭のモミジに養分のダイエットをして色づきを良くするのもいいでしょうが、やり過ぎると樹勢をそこねることもお忘れなく。』
(附記:西本氏の報告について、詳しくは下記のサイトを直接ご覧ください
https://www.ffpri.affrc.go.jp/fsm/research/pubs/joho/past/47.html

上記の西本氏以外の他の情報についても調べてみたところ、次のような記述がありました:モミジが毎年鮮やかな紅色をつけるためには、寒肥(かんごえ)といって冬季(12-1月ごろ)に根に肥料を与えて樹勢を保ちます。夏から秋に肥料を与えると秋になってもクロロフィルが残り、鮮やかな紅色になりません。上記のような点に注意すれば、秋にはおそらく美しい紅葉が毎年のように見られることでしょう。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-03-04