質問者:
会社員
山口
登録番号5003
登録日:2021-02-28
登録番号みんなのひろば
CAM植物とCO2固定量とCO2濃度の関係
1895を読み、
C4植物はCO2を葉の細胞内で濃縮をする機構を備えているため、C3植物に比べ低いCO2濃度の中でもCO2固定ができ、太陽光の下でC4植物は、ほぼ300 ppm CO2でCO2固定量は飽和するということを知りました。
では、昼間に二酸化炭素を取り込みながら光合成を行うのではなく、夜間に二酸化炭素を固定しておくだけのCAM植物の場合、CO2濃度とCO2固定量との関係はどのようになっているのかが気になりました。
C4植物のように現在の大気CO2濃度で飽和してしまっているのか、C3植物のように今後の大気CO2濃度の上昇によってまだいくらか光合成CO2固定の増加が期待されるのかどちらなのでしょうか。
C4植物はCO2を葉の細胞内で濃縮をする機構を備えているため、C3植物に比べ低いCO2濃度の中でもCO2固定ができ、太陽光の下でC4植物は、ほぼ300 ppm CO2でCO2固定量は飽和するということを知りました。
では、昼間に二酸化炭素を取り込みながら光合成を行うのではなく、夜間に二酸化炭素を固定しておくだけのCAM植物の場合、CO2濃度とCO2固定量との関係はどのようになっているのかが気になりました。
C4植物のように現在の大気CO2濃度で飽和してしまっているのか、C3植物のように今後の大気CO2濃度の上昇によってまだいくらか光合成CO2固定の増加が期待されるのかどちらなのでしょうか。
山口 様
この質問コーナーをたびたびご利用いただきありがとうございます。ご質問には植物の炭素代謝にお詳しい九州大学の上野先生から回答をいただきましたので参考になさってください。なお、本コーナーにはCAM植物に関するQ&Aが数多く掲載されていますが、上野先生には改めてCAM植物の営む光合成についての解説をお願しました。
【上野先生からの回答】
CAM植物は、夜間気孔を開いて大気中のCO2を葉内に取り込み有機酸として固定します。しかし、日中には気孔を閉じて葉の中の有機酸を分解して、生じたCO2をカルビン(C3)回路で同化します。大気CO2濃度の上昇が危惧されている今日、このような風変わりな植物がどのような光合成を行うのかは大変興味が持たれます。この問題を考えていくには、CAM植物の光合成(CO2固定)が1日の間にどのように行われているのか、もう少し詳しく理解しておく必要があります。これは以下の4つのフェイズに分けられます。
I期:夜間気孔を開いてCO2を盛んに吸収する時期。外気CO2はPEPカルボキシラーゼ(PEPC)の働きにより有機酸(主にリンゴ酸)として固定される。
II期:明け方から数時間のCO2吸収が行われる時期。外気CO2はPEPCにより固定される。やがて気孔が閉じ始める。
III期:午前後半から午後前半における気孔を完全に閉じている時期。従ってCO2の吸収はない。葉内では有機酸を分解して発生させたCO2をルビスコにより固定する。
IV期:午後後半から日没までの間。葉内の有機酸はほとんど消失して気孔が開き始め、CO2の吸収が開始される時期。外気CO2は主にルビスコにより固定される。
文章で書くとややこしいですが、「CAM光合成」等の用語をインターネットで検索すると、CAM植物におけるCO2吸収の1日の変化を図で見ることができます。重要な点は、CAM植物は外気CO2を主に夜間PEPCで固定するだけでなく、日中にもルビスコで固定している点です。
では、CO2濃度が通常大気の2倍弱程度(650~700 ppm)に高まったとき、CAM植物の光合成(CO2固定)はどのように反応するのでしょうか。これまでに様々なCAM植物について調べられていますが、CO2固定量、バイマス生産量いずれもC3植物のように増加することが分かっています。バイマス生産量の増加は平均35%程度です。これは、日中のルビスコ(C3回路)経由の外気CO2固定量とともに、PEPC経由の外気CO2固定量が増加するためです。前者の反応が起こるのは、C3植物と同じC3光合成が行われているためです。一方、後者の反応がなぜ起こるかですが、CAM植物の場合夜間気孔が開いていても葉の内部へCO2が拡散しにくく(おそらく、CAM植物の葉では葉肉細胞が緻密に配列しており細胞間隙が小さいため)、葉内のCO2濃度がPEPCの固定反応が飽和するほど高くなってないためだと考えられます。従って、大気CO2濃度が上昇すると葉内のCO2濃度も高まり、PEPC経由の固定量も増加すると考えられています。
この質問コーナーをたびたびご利用いただきありがとうございます。ご質問には植物の炭素代謝にお詳しい九州大学の上野先生から回答をいただきましたので参考になさってください。なお、本コーナーにはCAM植物に関するQ&Aが数多く掲載されていますが、上野先生には改めてCAM植物の営む光合成についての解説をお願しました。
【上野先生からの回答】
CAM植物は、夜間気孔を開いて大気中のCO2を葉内に取り込み有機酸として固定します。しかし、日中には気孔を閉じて葉の中の有機酸を分解して、生じたCO2をカルビン(C3)回路で同化します。大気CO2濃度の上昇が危惧されている今日、このような風変わりな植物がどのような光合成を行うのかは大変興味が持たれます。この問題を考えていくには、CAM植物の光合成(CO2固定)が1日の間にどのように行われているのか、もう少し詳しく理解しておく必要があります。これは以下の4つのフェイズに分けられます。
I期:夜間気孔を開いてCO2を盛んに吸収する時期。外気CO2はPEPカルボキシラーゼ(PEPC)の働きにより有機酸(主にリンゴ酸)として固定される。
II期:明け方から数時間のCO2吸収が行われる時期。外気CO2はPEPCにより固定される。やがて気孔が閉じ始める。
III期:午前後半から午後前半における気孔を完全に閉じている時期。従ってCO2の吸収はない。葉内では有機酸を分解して発生させたCO2をルビスコにより固定する。
IV期:午後後半から日没までの間。葉内の有機酸はほとんど消失して気孔が開き始め、CO2の吸収が開始される時期。外気CO2は主にルビスコにより固定される。
文章で書くとややこしいですが、「CAM光合成」等の用語をインターネットで検索すると、CAM植物におけるCO2吸収の1日の変化を図で見ることができます。重要な点は、CAM植物は外気CO2を主に夜間PEPCで固定するだけでなく、日中にもルビスコで固定している点です。
では、CO2濃度が通常大気の2倍弱程度(650~700 ppm)に高まったとき、CAM植物の光合成(CO2固定)はどのように反応するのでしょうか。これまでに様々なCAM植物について調べられていますが、CO2固定量、バイマス生産量いずれもC3植物のように増加することが分かっています。バイマス生産量の増加は平均35%程度です。これは、日中のルビスコ(C3回路)経由の外気CO2固定量とともに、PEPC経由の外気CO2固定量が増加するためです。前者の反応が起こるのは、C3植物と同じC3光合成が行われているためです。一方、後者の反応がなぜ起こるかですが、CAM植物の場合夜間気孔が開いていても葉の内部へCO2が拡散しにくく(おそらく、CAM植物の葉では葉肉細胞が緻密に配列しており細胞間隙が小さいため)、葉内のCO2濃度がPEPCの固定反応が飽和するほど高くなってないためだと考えられます。従って、大気CO2濃度が上昇すると葉内のCO2濃度も高まり、PEPC経由の固定量も増加すると考えられています。
上野 修(九州大学名誉教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2021-03-05
佐藤 公行
回答日:2021-03-05