一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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蓚酸カルシウム結晶の同定法について

質問者:   その他   江浅崇
登録番号0501   登録日:2006-02-06
失礼します。はじめまして。

植物に蓄積する蓚酸カルシウム(CaOx)結晶について勉強しているのですが、

そもそも文献などで紹介されている写真の結晶がCaOxだというのはどのような手法で同定されたのでしょうか。
またその手法は、植物体内の結晶同定を行う上で一般的なものなのでしょうか。

文献の選び方の悪さや勉強不足のせいで答えになるようなものを自分で見つけられなかったので、質問させて頂く事にしました。
どなたかご教授頂ければと思います。よろしくお願いします。
江浅 崇様

標記質問に対して、京都工芸繊維大学大学院の杉村順夫先生に回答していただきました。
専門的な研究法なので1、2を自分でやってみることはできないかもしれませんが、3は可能かと思います.紹介していただいた論文は internetで
「Annals of Botany」のArchiveから読むことができます。


1.
結晶形態からの同定:蓚酸カルシウムの結晶形態として、多数の細かい結晶が集まった結晶砂、結晶が集まって金平糖状になった集晶、針状結晶が多数平行に並んで束状になった束晶、棒状の結晶、プリズム状の結晶があります。結晶形態は植物種によって異なっており、植物分類の指標になっています。215科以上の植物種から蓚酸カルシウムは観察されているので、それらの形態と比較することで推定することができるかもしれません。ちなみに、単子葉植物については、次の文献が参考になるでしょう。
Prychid,C.J. and Rudall P.J. (1999) Calcium oxalate crystals in monocotyledons: A review of their structure and systematics. Annals of Botany 84, 725-739.

結晶形態を詳細に観察するためには、走査型電子顕微鏡が用いられています。試料を固定、脱水したのち、臨界点乾燥、金蒸着して試料の断面部を検鏡すると、細胞内に結晶がはっきりと観察できます(時には細胞外に結晶が観察される植物種もあります)。

2. X線分析による同定:近年、EDX(energy dispersive x-ray)を搭載した低真空型走査型電子顕微鏡が開発されました。この電顕は、生の試料をそのままの状態で観察できると共に、見つかった結晶部のみの元素分析ができます。その分析結果から、カルシウム塩であるかどうかが確認できます。蓚酸カルシウムや炭酸カルシウム結晶の場合はCaのシグナルがはっきりと検出できます。燐酸カルシウム結晶はCaとP、珪酸塩はSiのシグナルが検出できます。

3.
組織化学的染色よる同定:結晶がカルシウム塩と判定できた場合、蓚酸カルシウム、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムのどれであるかを決める必要があります。炭酸カルシウムや燐酸カルシウムは5%酢酸で溶解しますが、蓚酸カルシウムは溶解しません。(蓚酸カルシウムは4%硫酸、3%硝酸、10%塩酸で溶解します)。この酸に対する溶解性を利用して、以下のような前処理して組織染色します。固定・包埋した試料切片をスライドグラスに載せ、5%酢酸液で30分間処理します。水で洗浄後、5%硝酸銀水溶液で15分染色します。酢酸処理により炭酸カルシウムと燐酸カルシウムは溶解していますので、真黒に染色された結晶が蓚酸カルシウムと同定できます。

 杉村 順夫(京都工芸繊維大学大学院)
JSPPサイエンスアドバイザー
 勝見 允行
回答日:2006-02-28
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