一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

核相と倍数性について

質問者:   教員   おもち
登録番号5025   登録日:2021-03-22
 核相と倍数性について、染色体数の表記に関しての質問です。
 核相(n, 2n)とは「個体の生活環において、細胞の状態を核染色体のセットの数で表したもの」、倍数性とは「個体がもつ染色体(ゲノム)が、その種の基本数の整数倍であるような性質」というような認識だったのですが、いくつかの教科書やインターネット上の記述などを読んでいくうちに、混乱してきてしまったため、この場をお借りしてご教授願います。

 いくつかの文献で、パンコムギは基本数x=7の異質6倍体(AABBDD)であり、その染色体数は「2n=6x=42」と表記されるという記述を目にしました。関連して、核相と倍数性は別の概念であるから、3倍体の生物を3n、4倍体の生物を4nなどと表記するのは誤りであるとの記述も目にしました。
 一転して、『キャンベル生物学 原書11版(丸善出版)』では「私たちが食している植物の多くは倍数体であり、バナナは3倍体(3n)、小麦は6倍体(6n)、イチゴは8倍体(8n)である。」との記述があり、同様の記述が他でもいくつか見られ、文献ごとに記述が一貫していないように感じられます。
 個人的には、同質4倍体は繁殖力のある子孫を残せることや、登録番号0518の解答にもある、3倍体である種なしスイカは3価染色体を形成するといった記述から、同種由来のゲノムをセットでもつ同質倍数体は3倍体を3n、4倍体を4nなどと表すこともでき、減数分裂時に対合しないセットをもつ異質倍数体は3倍体であっても4倍体であっても2nと表すのだろうかと考えているのですが、これは正しいのでしょうか。
 また、高等学校の生物学の教科書に記載される、被子植物の重複受精で胚乳が3nになることについては、どのように考えればよろしいのでしょうか。

 まとまりのない文章になってしまいましたが、ご教授いただければ幸いです。
おもち様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
ご質問は、細胞の染色体の数と倍数性の関係を表記するのに、”n"と"x"とどう違うかということですね。
簡単に説明いたします。生物種はそれぞれ固有の数の組み合わせ(set)の染色体を生殖細胞は1組、体細胞は2組持っています。このような組み合わせを"n" で表示します。したがって卵細胞や精細胞 は "n" 、体細胞 は"2n"ということになります。この場合、基本となる染色体の数は関係ありません。
他方、倍数性を表す時は、1組の染色体の数(基本染色体数)を"x"で表示します。ヒトの場合 x=23なので2n=2x=46となります。倍数体の場合は、例えば、ジャガイモ(Solanum tuberosam L.、4倍体)は2n=48=4x、基本染色体数 "x"は12。パンコムギ(6倍体)は、それぞれ異なった3種の親から2組ずつの染色体を受け継ぎ合計6組の染色体を持つています。
すなわち、体細胞は2n=6x=42なので、"n"=21、"x"=7となります。
以上のように倍数体を表すときに3n、, 4nなどの表記は適切ではないでしょう。3倍体は2n=3x、4倍体は2n=4xです。胚乳は中央細胞(2n)と一個の精細胞が融合してしたものですから、3組の染色体からできた組織として3nとなります。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-04-17