一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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連作障害についての根本的な疑問

質問者:   会社員   カブトムシ
登録番号5028   登録日:2021-03-27
最近、連作障害について調べる機会がままあるのですが、そこでふと疑問が生じました。それは「野生の時はどうしていたのか」という点です。
自ら動けない植物ですから、それぞれさまざまな方法の生息地拡大戦略がある事は知っています。しかし、遠くに運ばれて生長する個体だけではなく親元近くで生長する事になる個体も数多くいると思います。そうした時に彼らは連作障害を乗り越えられていたのかどうか、というのが調べてもよくわからなかったので質問を送らせていただきました。
そしてそれらの中でも特に球根植物についてが気になっております。トマトやスイカのような果実を着ける植物は食べられる事で種子を遠くに運んでもらいやすいのだと思います。しかし球根植物はそう上手くいかないのではないでしょうか。球根植物を種から育てるのは難しいとききますし、それは自然環境下でも変わらないと思います。
長くなりましたかま何卒よろしくお願いします。
カブトムシさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
連作障害についてはお調べになっておられるので、どのような現象を「連作障害」と言うかについてはおわかりと思います。主に、大量の単一作物を連続栽培した際に発生する農業上の問題です。このコーナーでも連作障害に関するご質問が幾つかありますが、連作障害が起こる原因は土壌環境(栄養素組成、小動物、微生物相、物理的構成、化学物質の組成など)の変化によるもので1つの要因だけに基づくものではないですし (登録番号2212, 2214をご参照下さい)、すべての作物に起こるとは限りません。自然の大きな群落で必ず起こるものでもありません。自然環境で春咲きでも秋咲きでも野生種が大きな群落を形成することは珍しくありませんが「連作障害」に当たる現象はほとんど観察されていません。カタクリやフクジュソウなどの群生地はいつも同じ地域で群生を継続しています。多くの植物にはアレロパシー(他感作用)という現象があり、その1つに根が他の植物の発芽、成長を抑制する物質を分泌して、自種の繁栄を図るものと考えられています。例えばセイタカアワダチソウ(外来種)はその例ですが、時間経過とともに大きな群落になると分泌した抑制物質が蓄積し、自家中毒を受けて成長が抑制される現象が日本各地で観察されています。群落が貧弱になると他の植物種が侵入し、抑制物質が減少すると再び勢力を得ることを繰り返しています。自然環境では連作障害に類する現象があっても、共存する他種の植物によって土壌環境が回復することも考えられ「連作障害を乗り越える」積極的な仕組みがあるものではなさそうです。関連する自然の現象として、何らかの要因(例えば森林火災、洪水や耕作放棄地など)で生じた裸地に見られる(植相)遷移(二次遷移ですが)があります。これは先駆種が繁栄して生じた環境条件の変化に、より適応した他の種が優勢になる、ことを繰り返して植相が時間とともに移り変わるためとされています。
自然環境にある土壌条件は気象現象によって変化します。野生の球根植物は「連作障害が見られる」ものであっても、洪水、決壊などで球根が他の場所に運ばれて生き延びています。水田の畦や河川敷などに自生する(もともとは人為的に植栽されたものですが)ヒガンバナはその例です。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-04-21
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