一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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匍匐茎の環境応答について

質問者:   会社員   けいしー
登録番号5029   登録日:2021-03-27
高校の生物の教科書では植物の環境応答について学びます。芽生えを水平に置いた場合、オーキシン濃度に対する感受性の違いにより、茎は負の重力屈性、根は正の重力屈性が見られる、とあります。そこで気になったのですが、イチゴなどの匍匐茎は、どのように環境に応答して地面と水平に移動しているのでしょうか。匍匐茎はどこかで根を出して新個体を作る器官だと思うので、とにかく地面から離れるわけにはいきません。私の予想では、地面との接触を感じて植物体内に何らかの環境ホルモンが分泌され、それによって伸長方向が限定されることで水平に伸びるのではないかと思っています。
けいしー様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
回答は、地下茎や匍匐系の伸びるしくみで、素晴らしい研究成果を挙げておられる経塚淳子先生にお願いいたしました。

【経塚先生の回答】
匍匐茎をのばす植物はたくさんあります。特に難駆除性の雑草の多くは匍匐茎をのばして旺盛に成育します。匍匐茎はイチゴのように地上を伸びるものだけではなく、シバのように地上すれすれを伸びるものもあります。また、タケやスギナ、ドクダミなど多くの植物は地下(土中)を伸長する匍匐茎(地下茎)を発達させます。このように伸びる場所は違っていても、横方向に延びるということが匍匐茎に共通する性質です。匍匐茎(地下茎)が地面の下あるいは地面すれすれを這っていき、そこで新たなクローン個体を作るということは、動かない植物が動いたということだとも言えなくもありません。 匍匐茎は生育領域を拡大するための強力なツールなのです。 また、興味深いことに、匍匐茎(地下茎)をのばす植物は匍匐茎だけではなく上に向かって伸びる普通の茎も伸ばします。普通に縦方向に伸びる茎と横方向に延びる匍匐茎をうまく使い分けて旺盛に成長します。そろそろ領土を拡大しようという段階に至ると匍匐系を発達させるのだと考えられますが、それがどのようにコントロールされているのかはわかっていません。また、匍匐系として伸びることに運命づけられた茎がどうして横方向(水平方向)に伸びてゆくのかもわかっていません。一般に匍匐茎は旺盛に伸長しますが、これについては、匍匐茎では植物ホルモンのジベレリンの合成量が高くなっていることが知られています。しかしながら、何を感受してジベレリンの合成が高まるのかは調べられていません。

結局、答えは「わかりません」なのですが、私たちの周りにはたくさんの匍匐系をのばす植物があります。そして、それらはとても旺盛に繁茂します。茎が匍匐茎として伸びることを運命づけられ、ぐんぐん水平方向に延びるようになる仕組みが解明されるといいですね。
経塚 淳子(東北大学大学院生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2021-05-21