一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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野菜の色

質問者:   小学生   れもん
登録番号5031   登録日:2021-03-28
塾の理科の授業で虫媒花は花弁が目立つように色がついていることを知り,野菜(トマトやナスなど)は,なぜ色がついているかが気になったからです。
なぜ野菜(トマトやナスなど)は,色が付いているのですか?
れもん様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。

植物の中には、初めは緑色だった果実が成長し、成熟するにつれ赤、紫、黄など色づくものがたくさんあります。成熟した果実の内部では、種子も成熟し、発芽して次の世代の植物になる準備ができています。
そのような状態の果実の中には、色の変化だけではなく、甘味が増したり、緑色の未熟の時にはあった苦みや渋みが無くなったり、含まれていた有毒な物質がなくなったりするものもあります。鳥や動物(人間を含めて)は色の変化から、果実が食べられる状態になったかどうかわかります。いろいろな鳥が色づいた木の実をついばんでいるのを見たことがあるのではないでしょうか。これだけですと植物が鳥や動物に食糧を提供しているだけのようですが、植物にも良いことがあります。消化できなかった種子が糞といっしょに排泄されたり、硬くて食べられなかった種子を捨てることなどで、種子を広く散布してもらえます。
私の家の庭には、センリョウやマンリョウが植えてありますが、せっかく赤くなった実を楽しんでいるときに、ヒヨドリがやってきて、ぜんぶ食べられてがっかりしたことがあります。人間には色のついた果実は食べるだけではなく、鑑賞するということにも使います。
さて、野菜の色ですが、例にあげておられるトマトとナスについて説明します。現在食卓にのぼっているトマトは、南アメリカのアンデス山脈の西側のやや高いところに生えている野生のトマトがもとになっています。野生のトマトは成熟すると赤くなる直径1.5cmくらいの小さな実をつけます。1550年ごろヨーロッパに伝えられ、品種改良されました。当初は観賞用だったようです。17世紀になって日本にも伝来しましたが、やはり最初は観賞用だったようで、食用になったのは明治時代に入ってからです。永年の栽培の過程で、鑑賞や食料に適した性質をもった品種、例えば大きな果実をつけるもの、味のよいもの、色の美しいもの、病気に強いもの、気温など栽培環境に合うもの、などが選ばれたり、掛け合わせでつくられたりしました。
ナスはインドが原産の植物です。現在のナスのもとになった野生の植物は二通り考えられていますが、どちらも熟すると小さな黄色の実をつけます。栽培の歴史はトマトよりさらに長いようです。日本には正倉院文書に記録があることから、西暦750年以前には伝来していたと思われます。日本では食用の果実は濃紫色のものが一般的ですが、東南アジアでは、緑色、淡緑色、濃紫色と果実の色は多様で、緑色、淡緑色の方が普通です。栽培の過程でそのような色の果実をつけるものが選ばれたのでしょう。観賞用に たまごなす という黄白色の園芸品種も知られています。日本でも江戸時代には濃紫色、緑色、白色と今より果実の色は変化に富んでいたと推測されていますが、日本では濃紫色のものが好まれたのでしょう。
最初に書きましたように、野生の植物の果実の色は、食べものを供給する代わりに種子を散布してもらうという植物と鳥や動物との関係をとりもつものでした。栽培を始めると、栽培を続ける過程で、食用として、あるいは観賞用として、人間が必要とする、あるいは好む色の果実をつける植物を選び出したり、掛け合わせして作り出すことで野菜の色が決まってきたように思います。人間が畑で栽培することで野菜や観賞用の品種は分布を広げますので、食べものを供給する代わりに種子を散布してもらうという関係は保たれているということもできるかもしれませんね。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-04-29
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