一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の繁殖力の違い

質問者:   会社員   T
登録番号5045   登録日:2021-04-13
Yahooニュースで「地球上で最悪の侵略的植物」と言われているナガエツルノゲイトウが兵庫県で繁殖しており、問題になっている事を知りました。
ふと疑問に思ったのですが、植物によってこれほどまで繁殖力が違うのは何故でしょうか。
具体的にはどの様な要因や性質によるものなのでしょうか。
また、繁殖力の強さを遺伝させることができれば育てることが難しい植物を育てやすくしたり、農業において早期収穫や収量の増加を見込めると思うのですが、そういった研究は行われているのでしょうか。
T 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には岡山大学資源植物科学研究所の坂本 亘先生から回答文を頂戴しました。参考になさってください。

【坂本先生からの回答】
今回のご質問に起因する「最悪の侵略植物」というのは、人間から見た独善的な表現で、私には注意喚起のために危険をあおりすぎている気もしますが、確かに心配なことですね。また、Tさんの書かれたように、駆除するだけでなく、植物の繁殖力の違いとなる要因を知って活用できたら、という疑問ももっともです。どんな研究がされているかの前に、まず「繁殖力」について考えてみましょう。ナガエツルノゲイトウは、種子ではなく栄養生長で爆発的に増えるので、一見、侵略して恐ろしく見えますが、種子を飛散しないので人や動物が持ち歩かなければ局所的に繁殖するだけのはずです。また、夏に生育が旺盛な植物は(例えばC4光合成植物など)、寒くなると急に成長が悪くなったりします。ということは、ナガエツルノゲイトウの繁殖力が強いかは、生育環境との関係で決まるので、最強の繁殖力があるわけではないのです。小さいけれど種をたくさん作って侵略する外来種だって駆除は大変ですし、見えないから問題ないとして、将来、どんな影響を及ぼすかはわかりません。そうすると、植物の生存戦略としては、種子をたくさん作って(これを生殖生長といいます)遠くに飛ばして繁栄するものと、ナガエツルノゲイトウのように栄養生長でどんどん自分を増やして繁栄するものがあることになります。栄養生長と生殖生長をうまくコントロールしながら植物は繁殖している、ということになります。

さて、ここまで書いておわかりになったと思いますが、ナガエツルノゲイトウの繁殖力を農作物へ応用するとしたら、栄養生長をどんどん続けてしまうので、穀物のように種子を食べる作物には向いていないことになります。ただし、栄養生長を続けるということは、茎からどんどん芽や根を作って指数関数的に増殖しているので、この芽をたくさん作る能力を作物に活用することはできるはずです。「芽を作る」ことは、一度茎や葉になった細胞がもう一度リセットされて分裂を始めるので、ナガエツルノゲイトウではこの再生する能力が高い、ということになります。ちょっとiPS細胞に似ていますね。このような再生能力はオーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンという生理活性物質の作用で決まり、そのような作用を決める遺伝子も明らかになっているので、ナガエツルノゲイトウを研究すればそれらを明らかにすることはできそうです。ナガエツルノゲイトウのような水草に限らず、砂漠や海辺で旺盛に生育する植物を材料に遺伝子を研究し、植物の繁殖力を明らかにして活用する研究は世界中で進んでいます。話がそれますが、例えばアイスプラントは、最近サラダで食べたりしますが、乾燥に強くてCAM光合成という変わった光合成をする植物として研究されていました。このように、様々な環境を克服して生存可能な植物の持つ作用を、「環境ストレス耐性」といいます。環境ストレスは大きく分けて病害虫などの生物ストレスと温度や光、水分などの非生物ストレスがあり、植物では活発に研究されています。ストレス耐性作物を作ると、作物が生育できない悪環境でも収穫できるので、収量があがることが期待できます。でも、上に述べた栄養生長と生殖生長のバランスも必要です。ナガエツルノゲイトウを眺めて、植物のこと、いろいろ考えてもらえたらと思います。
坂本 亘(岡山大学資源植物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2021-05-05