一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物に大器晩成はありますか?

質問者:   公務員   にしい
登録番号5049   登録日:2021-04-17
趣味で家庭菜園をしており、種子から育てることに魅力を感じ、色々な野菜の種まきをしております。
ネットや本で農林業に関する情報を調べると、種子から育てる場合は、一定程度発芽した後は必ず「間引き」の作業があり、(心を痛めながら)私も教科書通りに成長の遅い芽を取り除いております。
そこで、ふと疑問に思ったのですが、「間引き」の対象になっている成長の遅い株は、そのまま生育をしても成長が遅いままで、ある程度大きくなってから急成長することはないものでしょうか。
自然界では、太陽光を如何に多く獲得するかが非常に重要だと思われますので、発芽してすぐ生育旺盛な株が生き残りやすいのは当然ですが、一方で、四字熟語にある「大器晩成」のような、生命力がある株で、伸びはあるけど最初は緩やかに成長する株や、あるいは「ウサギとカメ」のカメのようにコツコツと安定して他の株よりも長く成長し続ける株があってもおかしくない考えています。
質問に関連した研究や、「大器晩成」な品種や、成長以外を見極めて間引く栽培法などがあれば合わせてご教示いただけますと幸いです。
よろしくお願いします。
にしいさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
発芽後初期の幼植物の生育度の違いから「大器晩成」があるのかとの疑問ですが、大器とはもともと優れた資質を持っている者を意味するようですので植物では種子の資質に相当すると思います。種子はたくさんできますが、すべての種子が同じではありません。種子に生ずる大小、長短の違いは蓄積されている栄養分(次世代個体の初期生長を支える、胚乳あるいは子葉に蓄えられている多糖類、蛋白質、脂質類)と胚の成熟度(後熟度)がすべて均一とは限りません。当然、蓄積栄養分の少ない種子や成熟度、後熟度の十分でない種子から生じた幼植物の生育は悪くなり放置すれば次に述べる競争に勝てませんので正常に生育することは期待できません。「小器早滅?」ということでしょうか。
同種の植物を含め近隣に生育する個体同士はいろいろなレベルで競争関係にあります。植物は常に光、栄養となる無機イオン類及び水を求め合っています。しかも、水、無機栄養分の土壌中の分布は均一とは限りません。不均一な分布と見る方が自然の状態です。密に播種して生じた幼植物も密になり、光量、光質は同じにならず、近接する根系はお互いに水、栄養分を奪い合っています。葉に当たる光量、光質が異なれば生育に僅かな差が生じます。その結果は根茎における水、栄養の争奪戦に大きな影響を与えます。少しでも弱ければ土壌微生物、小動物の侵襲を受け、ますます生存競争に不利になっていきます。樹木苗を一定間隔で植林しても樹木が生長するにつれて生長に差が出てきます。根茎の土壌環境は個体によって異なるからです。その結果はさらに地上部の生長に影響します。それ故、より良質の樹木を得るためには、生長の遅れた個体を間引きし、下草刈りを行います。光、水、栄養を生長良好な個体に十分に行き渡るように(別の言い方をすれば、弱い個体、目的外の他植物に貴重な資源を与えないように)するためです。作物栽培においても同じことです。
植物は自己生存のために外部環境の変化に敏感に反応しています。温度変化、湿度変化、光量変化、光質変化、物理的接触、病傷害は大きなストレスとなって個体の内部環境に変化を与え、これらが生育に影響してきます。栽培農業は、同じような形状、品質の作物を大量に生産するために土壌環境、地上部環境を人為的に制御する作業と言うことになります。
最後に「間引きの対象になっている成長の遅い株は、そのまま生育をしても成長が遅いままで、ある程度大きくなってから急成長することはないものでしょうか。」とのお尋ねに対してですが、生長の遅い株(競争力の弱い株)を、最適の環境(競争の少ない環境)に移せば「急成長」するかどうかは作物種によって異なるでしょうが、正常に生育するはずです。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-05-11