質問者:
会社員
ふか
登録番号5066
登録日:2021-05-09
硝酸カリウムを与えることで植物体内のどういう反応が促進されるのか?みんなのひろば
カリウムが根の生育を促進するメカニズムについて
家庭菜園の肥料を調べてカリウムの効果が気になり、質問いたしました。
カリウムを野菜などに与えた場合の効果は、多くのサイトで「根の生育を促進する」との記載があり、
家庭菜園で育てているブロッコリーの種子に水と硝酸カリウムの溶液をかけて比較してみたところ、たしかに硝酸カリウムを与えたもののほうが根が伸びており、少し成長も進んでいたようにみえました。
この結果から、いくつかの疑問ができました。
まず、文頭にも記載した内容の
[カリウムが植物体内のどういう反応を促進しているのか?]という点です。
調べていてよく目にするのは「デンプン・タンパク質の生成・移動・蓄積に役立つ」というものや、「ATP合成に使われる」というようなものですが、あっておりますでしょうか。
その場合は、ATPが普段よりも多く存在するため根を伸ばす方にもATPを使えるようになった。という考えでしょうか?
次に、カリウムを与えた種子でブロッコリーの葉の成長がよくなったことに関して、 [カリウムは根の生育以外も促進するのか?]という点です。
硝酸カリウムの効果としては根の生育についての記載が多かったため、葉の生育にも効果があるのかと、驚きました。
単に植物体としてはかなり幼い段階であったため、
根の生育度合いがそのまま植物体としての生育度合いにつながっているだけなのでしょうか。
以上2点、ご教授いただければ幸いです。
ふか様
植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
植物の養分には、大きく区分けして、有機化合物の構成成分になるもの、 エネルギーの生産、蓄積にかかわるもの、遊離のイオンとして存在するもの、酸化還元反応に関わるものなどがあります。カリウムは遊離のイオンとして存在し、細胞の浸透圧の調節、細胞内のpHや電気的なイオンバランスの調整、多くの酵素の活性化などに関わっています。
酵素の活性化ですが、60種類以上の酵素がカリウムによって活性化することがわかっています。呼吸や光合成に関与する多くの酵素もカリウムで活性化されます。呼吸はATPを生成する主要な代謝で、糖が多くの酵素反応(解糖系、クエン酸回路、酸化的リン酸化の過程)を経て二酸化炭素と水にまで分解されます。その過程でATPがつくられます。カリウムがないとこの過程に関与する酵素のうちある酵素は十分に働きませんので、ATPが効率よくつくられません。例えば解糖系の酵素であるピルビン酸キナーゼ、フルクトキナーゼ、デンプンホスホリラーゼなども適正な働きをするためにはカリウムが必要です。これらの酵素は炭水化物の代謝に働く酵素ですので、カリウムがないと炭水化物の代謝が円滑にすすみません。ピルビン酸キナーゼによる反応ではATPが作られますが、カリウムがないと十分な生成がおきないことになります。また、炭水化物の代謝だけでなく、たんぱく質の代謝でもポリソームにおけるタンパク質合成がカリウムがないと円滑に進まないことがわかっています。
まず最初の質問ですが、正常につくられていたATPがカリウムによってさらに生成量が増えたということではありません。正常に作られるためにカリウムが必要だということです。二番目の質問ですが、カリウムは根だけに働くものではありません。カリウムがないと炭水化物の代謝(光合成や呼吸)もタンパク質代謝も適正に機能しないわけですから、当然根だけでなく葉にも影響がでます。カリウムが欠乏すると、最初に見られる症状は葉に斑点がでたり、葉の縁の黄変です。その後、葉の壊死に向かいます。カリウムは古い葉から若い葉に移動できるので、欠乏症状は成熟葉からはじまります。また、カリウムが欠乏した植物では茎が細く、倒れやすくなる傾向があります。これらの現象から、カリウムが葉や茎の健全な成長に必要なことがわかります。
ブロッコリーの発芽種子の根の成長が硝酸カリウムで促進されたとのことですが、それだけではカリウムの効果とは言えません。硝酸イオンの影響かもしれません。また、どのような条件で調べられたのかわかりませんが、溶液のpHの影響かもしれません。もちろんカリウムの影響である可能性は否定できませんが。
なお、カリウムの働きについては本コーナーの登録番号2399に丁寧に、わかりやすく解説されていますので、ぜひご覧下さい。
植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
植物の養分には、大きく区分けして、有機化合物の構成成分になるもの、 エネルギーの生産、蓄積にかかわるもの、遊離のイオンとして存在するもの、酸化還元反応に関わるものなどがあります。カリウムは遊離のイオンとして存在し、細胞の浸透圧の調節、細胞内のpHや電気的なイオンバランスの調整、多くの酵素の活性化などに関わっています。
酵素の活性化ですが、60種類以上の酵素がカリウムによって活性化することがわかっています。呼吸や光合成に関与する多くの酵素もカリウムで活性化されます。呼吸はATPを生成する主要な代謝で、糖が多くの酵素反応(解糖系、クエン酸回路、酸化的リン酸化の過程)を経て二酸化炭素と水にまで分解されます。その過程でATPがつくられます。カリウムがないとこの過程に関与する酵素のうちある酵素は十分に働きませんので、ATPが効率よくつくられません。例えば解糖系の酵素であるピルビン酸キナーゼ、フルクトキナーゼ、デンプンホスホリラーゼなども適正な働きをするためにはカリウムが必要です。これらの酵素は炭水化物の代謝に働く酵素ですので、カリウムがないと炭水化物の代謝が円滑にすすみません。ピルビン酸キナーゼによる反応ではATPが作られますが、カリウムがないと十分な生成がおきないことになります。また、炭水化物の代謝だけでなく、たんぱく質の代謝でもポリソームにおけるタンパク質合成がカリウムがないと円滑に進まないことがわかっています。
まず最初の質問ですが、正常につくられていたATPがカリウムによってさらに生成量が増えたということではありません。正常に作られるためにカリウムが必要だということです。二番目の質問ですが、カリウムは根だけに働くものではありません。カリウムがないと炭水化物の代謝(光合成や呼吸)もタンパク質代謝も適正に機能しないわけですから、当然根だけでなく葉にも影響がでます。カリウムが欠乏すると、最初に見られる症状は葉に斑点がでたり、葉の縁の黄変です。その後、葉の壊死に向かいます。カリウムは古い葉から若い葉に移動できるので、欠乏症状は成熟葉からはじまります。また、カリウムが欠乏した植物では茎が細く、倒れやすくなる傾向があります。これらの現象から、カリウムが葉や茎の健全な成長に必要なことがわかります。
ブロッコリーの発芽種子の根の成長が硝酸カリウムで促進されたとのことですが、それだけではカリウムの効果とは言えません。硝酸イオンの影響かもしれません。また、どのような条件で調べられたのかわかりませんが、溶液のpHの影響かもしれません。もちろんカリウムの影響である可能性は否定できませんが。
なお、カリウムの働きについては本コーナーの登録番号2399に丁寧に、わかりやすく解説されていますので、ぜひご覧下さい。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-05-20