一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物が取り込むミネラルについて

質問者:   会社員   えいじ
登録番号5067   登録日:2021-05-11
植物は我々の身の周りの道具、建築材、食料さらには燃料等として活用されており、人類は実に多種多様な用途で植物を利用することで繁栄してきたかと思います。賛否両論あるかと思いますが、昨今では植物由来の燃料はカーボンニュートラル燃料として位置付けられ、地球温暖化抑制の策として極めて重要な役割を果たすようになってまいりました。そのように植物を燃料として扱う際、その「燃え殻」つまり「灰」の物性が組成によって様々であり、含有物質の違いによる燃焼機器等への影響(機器腐食性、灰付着性・溶融性など)が異なり、利用側としては大きな問題になることがあります。その「灰」の組成について質問ですが、植物の灰分は主にミネラルで構成されており、Si, Al, Fe, Ca, Mg, Na, K, S, P, Ti, Li, V, Mn等が含まれ、その種類と含有量は多様な組み合わせが存在するかと思いますが、そもそも植物中に含まれるこうしたミネラルは、どのようにして取り込まれているのでしょうか。元々は土壌中に含まれていたものが水に溶解し、水と共に吸い上げられたものが体内に分布しているものと想像しますが、それは植物の種類によってミネラルの種類と含有量が決まってくるもの、つまり植物が選択的に特定のミネラルを吸い上げて吸収しているものなのか、あるいは植物が生育する土壌の成分によって決まってくる、つまり植物の種類に関わらず、地質によって植物に取り込まれるミネラルが決まってくるものなのか、教えて頂ければと思います。もし前者であれば、生育地に関係なく植物の種類で決まるものと考えられますし、一方後者であれば植物の種類とは関係なく地域(地質)によって決まってくるものと考えられますが、どのような要因で植物含有ミネラルが決まってくるものなのか、ご教示頂ければ幸いです。更に、取り込まれたミネラルは植物のどこに蓄積されているのでしょうか。類似の質問で登録番号1456「植物の種子に含まれるミネラル」でも解説がありますが、種子以外にも植物の体内のどういったところにミネラルが分布するものなのか、ご教示頂きたく、よろしくお願い致します。
えいじ さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
根から吸収される無機栄養素の吸収はそれぞれ固有のトランスポーター(輸送体)やチャンネルを通して行われ、他の組織、器官の必要度(需要度)に応じて厳密に制御される栄養素と土壌中に過剰にあれば「贅沢」に吸収、蓄積する栄養素(例えばリン)があります。また、土壌のpH状態で土壌微細粒子などに吸着したり酸化状態にあったりして、直ちに吸収される状態でない栄養素(例えばFe)もありますが、これらは特別な仕組で根から有機酸などを分泌し金属イオンとキレート(抱合物)を形成して吸収されます。土壌中にある栄養素の状態によって吸収される栄養無機イオンの量、速度も違ってきます。植物側の栄養素に対する要求度は種の違いばかりでなくいろいろな条件(主として土壌条件や共存イオンのバランス、植物の生理状態)によっても変わってきますから、同じ種の植物でも生育している場所によって吸収される量も変化します。イネ科の植物やトクサなどはケイ素を多量に吸収します。さらに、種によっては特殊なイオンを特にたくさん吸収するハイパー・アッキュムレータ(Hyper accumulator)と呼ばれるものがあります。例えば、里山ではごくふつうに見られるコシアブラ(ウコギ科)はマンガンやセシウムを、また金銀銅鉱山の坑道や鉱石捨て場に好んで生育するヘビノネゴザ(オシダ科)は鉛、カドミウムを特異的に大量吸収、蓄積することでよく知られています。これらの吸収においても根が分泌するばかりでなく土壌微生物の力で生成されたキレート物質によって溶脱された重金属を吸収しています。セシウムには固有の輸送体がありませんが、カリウムの輸送体が働いていると思われます。コシアブラの場合、土壌中マンガン濃度よりも遙かに高い濃度で蓄積されますのでエネルギーを使った仕組みがあることが推定されます。例えばABCトランスポーターと呼ばれる一群のトランスポーターのどれかを使っているかも知れません。
つまり、植物は「選択的にミネラルを吸収する」がその「選択性は種の違い」によっても「ミネラルの存在状態」によっても異なってきます。したがって「植物の種類によってミネラルの種類と含有量が決まってくるもの」とか「植物の種類とは関係なく地域(地質)によって決まってくるもの」と言った固定的なものではありません。
また、「取り込まれたミネラルは植物のどこに蓄積されているのでしょうか」についてはミネラルの種類によって、液胞に蓄積されたり、特殊な腺状の細胞に蓄積したり、細胞壁に蓄積したりします。巨視的に見ると例えば樹皮に多く分布する、シュート全体に不均一に分布するなどの場合が知られています。アイスプラントという外来の植物は耐塩性の強い植物で、表皮に塩化ナトリウムを蓄積、隔離しています。サラダなどとして食用になりますが塩味を感ずるほどです。
なお、ミネラル、塩類の吸収については本コーナーの登録番号5048, 3794, 3279を、さらに関連するものとして吸収能力を利用したファイトレメディエーション、ファイトマイニングと言った立場のサイトがWebにありますのでご参照下さい。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspp/2010/0/2010_0_0689/_article/-char/ja/
https://www.tel.co.jp/museum/magazine/news/146.html
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-05-19