一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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高木が水や養分を吸い上げるメカ

質問者:   一般   yosishun
登録番号5079   登録日:2021-05-17
10メートル以上ある樹木に水分や養分が吸い上げられるメカニズムについて教えてください
yosishun様

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。

この問題は、「みんなの広場」で、「凝集力」検索語として調べ、登録番号0656(その部分訂正は登録番号1457)、登録番号2163に詳しく説明されていますので、まずそれを読んでください。

要約と補足
(専門的になり、難しい点もありますが、一応説明します):水分子(H2O:)分子量約18)は1個の酸素原子に水素原子2個が共有結合により結合しています(電子を出し合っている結合です)。メタン(CH4:分子量約18)は1個の炭素原子に4個の水素原子が共有結合しています。水分子に結合しているO原子はH原子に比べて電子を引き付ける力がやや強いので、H-O結合では、電子は平均的に(存在の確率的に)、両者の中点よりもややO原子寄りにある時間が長くなっています(分極しているといいます)。このことを強調して、水分子をHδ+-Oδ--Hδ+とあらわすこともあります。δ-およびδ+は、電子(e-)の存在確率が両者の中立点よりも、やや近くに隣接するおよび遠くにあること、を表します。このようなわけで、ある水分子中のH原子は、たまたま近くにある他の水分子のO原子との間に、弱いながらも引力(水素結合といいます)が生じます。これが、水の「凝集力」の源です。その結果、水は分子量が同程度の他の化合物と比べて、融点(0℃)や沸点(100℃)が高いという特徴を持っています。メタン分子(分子量約18、融点(-183℃)、沸点(-162℃))では、C原子とH原子の電子の分布にこのように大きな偏りがないため、隣接するH原子と他の分子のC原子との間にこのように大きな引力が働きません。また、空気(その主成分は窒素(N2)と酸素(O2)と水分子の間では、水素結合が途切れてしまうので、凝集力が働きません。
水は陸上植物の根から吸収されて、葉の気孔を通って大気中に放出されます(蒸散と言います)。植物組織では、根から葉までの水の通り道は茎の中を走っている導管です。水が気孔から蒸散することにより気孔周辺の細胞の水分子は失われますが、その分は導管から補われます。葉から蒸散によって失われる水は、元をたどれば、根から吸収されたものであり、水の凝集力によって根から気孔までつながっています。樹高80mに及ぶ高い木であっても、茎の導管はきわめて細いので、水分子のつながりが切れることなく根から天辺の葉の気孔までつながっています。生きている草花では根から葉まで一つながりになっている水の連絡が、花瓶に生けるときには切り口から入った空気によって遮断され、水の連絡が中断され、葉に水が供給されなくなります。このようになった草花の茎を水の中で再び切断すると、空気で遮断されていた部分が取り除かれて水の連絡が回復するので、花瓶の中の水から葉に至るまでの水の連絡が回復します(「水切り」の意義)。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-06-13
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