一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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樹木の葉の大小

質問者:   高校生   りょうすけ
登録番号5095   登録日:2021-05-29
こんにちわ
最近森林の観察をしていたところ、ハリギリや、ホオノキ、トチノキ、オオカメノキ等で同じくらいの大きさの幼木でも、日向に生えている幼木と、林内に自生している幼木で、葉の大きさが違う事がおおく、林内に自生している幼木のほうが、葉が大きく、掌サイズまで、大きくなっていたり、するのに対し、日向に自生しているのは、全体的に葉がこぶりになっている様子が見られました。
これは、光の量などになにか、関係しているのでしょうか?
りょうすけ 君

この質問コーナーをご利用くださりありがとうございます。ご質問には、植物の葉を詳しく見つめておられる東京大学の寺島一郎先生から下記の回答文をいただきました。参考になさってください。

【寺島先生からの回答】
ご明察の通りです。光の量と大いに関係しています。もう一つ、自然条件下では、光の強いところは乾燥しがちで、光の弱いところは湿潤です。これも葉の展開にとって重要です。

陽葉と陰葉について: 
葉の光合成組織(葉肉組織)が柵状組織と海綿状組織に分けられることや、植物は同じ個体の中でも明るさに応じて陽葉と陰葉とを作ることはご存知でしょう。陽葉では柵状組織が厚くなります。柵状組織細胞が長くなるだけの場合もありますが、細胞が分裂して柵状組織の細胞層数が増える場合もあります。このように光環境が、若い葉(葉原基)が陽葉になるのか、陰葉になるのかを決定しています。陽葉と陰葉との間には「細胞層数」以外にも、葉緑体の性質が違うなど、いろいろな違いがありますが、「細胞層数」の違いは若い葉そのものの光環境ではなく、成熟葉の光環境が決定しているようです。樹木には冬芽の中に葉がたたまれた段階で細胞分裂が終わっているものもあります(ブナやイヌブナなどもそうです)。この時点でもちろん細胞層数も決まっています。このような種では、冬芽を作る段階の成熟葉の光環境が、冬芽の中の葉の細胞層数を決めているようです。陽葉の方が葉の表面積あたりの気孔の数は多いのですが、気孔の数の制御にも、成熟葉からのシグナルが関与します。成熟葉が明るい場所にあると若い葉の気孔密度が高くなるのです。これらに対して、葉緑体の性質は、その葉に実際にあたる光の環境が決めると一般には考えられています。ただ、私たちの研究では成熟葉の影響も受けるという結果も得られています。

植物器官の成長(伸長)と水分環境:
植物の器官の成長過程は、細胞分裂と細胞の肥大の時期がはっきり分かれる事が多く、後者は極端に言えば水膨れです。湿潤だと肥大しやすく、乾燥していると細胞は大きくなれません。細胞壁は厚く力学的には丈夫にはなります。たとえば、面白いのは葉の裏側の表皮です。顕微鏡で簡単に観察できますのでご覧になるといいと思います。陽葉では、細胞1個あたりの面積が小さく表皮の細胞同士はあまり入り込みません。一方、陰葉では、細胞が大きく、細胞同士がジグソーパズルのように入り込みます。陰葉の葉肉組織の細胞も大きく(柵状組織の細胞は長くはありませんが)、細胞壁は薄く、細胞と細胞との間隔は大きくなります。ただし、柵状組織の細胞は長くはなりません。このように陰葉の方が大きく展開しやすいのです。

1年生植物のシロザでは、陽葉と陰葉の葉1枚あたりの柵状組織の細胞総数はほぼ一定でした。陽葉では柵状組織の細胞層数が2層になります。それに伴って、葉の面積方向の細胞の数は陰葉の方が2倍になります。その細胞のひとつひとつが、陰葉の方で大きくなります。少なくともシロザについては、葉の面積が大きくなる理由は、面積方向のそもそもの細胞数が多いこととと、水膨れの2つということになります。

先ほど、陽葉の気孔の密度が高いと述べました。細胞が大きくなると、単位面積あたりの細胞の数は減るので、当たり前のように思えます。そこで気孔の密度を議論する場合には、気孔1個が、表皮細胞何個あたりに存在するのかも問題にします(気孔指数)。陽葉の気孔密度が高いのは、細胞が小さく気孔指数が大きいという2つの要因からなっています。
寺島 一郎(東京大学大学院・理学系研究科生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2021-06-19