一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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光合成後の光子について

質問者:   高校生   科学大好き学生
登録番号5098   登録日:2021-06-01
学校の生物基礎の授業で光合成をやった時、光子から光エネルギーをとり、そのエネルギーを用いて光合成を行うと習いました。では、光エネルギーを取られた光子はその後どうなってしまい、どこにいってしまうのでしょうか。お忙しいと思いますが、返信お願いいたします。
科学大好き学生さん

みんなのひろば 植物Q&Aへようこそ。
質問を歓迎します。
光合成の仕組みは大変複雑で、「植物Q&A」にもたくさんの質問と回答が蓄積しています。検索語として「光合成の仕組み」を入力し、登録番号0731, 0850, 4200を読むとおおよその知識が得られると思います。

光のエネルギーを他の形態のエネルギー(例:電気エネルギー、化学エネルギー等)に変換することは可能ですが、変換効率は100%ではなく、変換に利用されなかったエネルギーは、主に熱エネルギーとして環境中に放出されます。
生物および無生物を含めた自然界のエネルギー変換関係の全体を扱う学問は、熱学(化学分野に焦点を当てた学問は、熱力学や統計力学)です。熱学では、エネルギーの形態には、電気エネルギー、化学エネルギー、光エネルギー、熱エネルギー等々、様々なものがあり、異なるエネルギーの間でエネルギーの相互交換は一般的に可能であるとされています。しかし、全体を良く見ると、他のエネルギーから熱エネルギーへの変換は容易であるのに対し、熱エネルギーから他のエネルギーへの変換には効率の面で限界があり、温度差がなければ、他のエネルギーへの変換は不可能なことが明らかとなっています。温度とは、物質系の熱エネルギーの平均値を表したものです。火力発電や原子力発電では、発電に温度差(熱水と冷却水)が必要で、温度差がないと発電できません。発電に使われなかったエネルギーは、熱となって環境中に放出されます。海洋の水(海水)は莫大な熱エネルギーを持っていますが、これから人類の生活にとって有用なエネルギーを取り出す方法はありません。太陽光発電は、光半導体を利用して、光のエネルギーの一部を電気エネルギーに変換する装置です。受光した太陽光エネルギーがどの程度効率で電気エネルギーに変換できたかは、変換効率によってあらわされますが、最新鋭のもので変換効率が20%に届くかどうかというところです。利用できなかった光エネルギーの残りの部分は、熱となって環境中に放出されます。
光合成は、光合成生物が、光エネルギーを化学エネルギーに変換する全過程を表します。これには、光合成色素、タンパク質、電子伝達や酵素反応等に関与する多くの因子(タンパク質もあれば、非タンパク質のものもある)が関与しています。酸素を発生する光合成生物の光エネルギーを化学エネルギーに変換するための装置は、2種類の光化学反応系(光化学系IとIIの2種類)です。光化学系IIは、光のエネルギーを利用して、水を分解して中程度の還元力を持った電子を生じ、光化学系Iは、光のエネルギーを利用してさらに還元力の強い電子を生じます。強い還元力を持った電子は、CO2が固定されてできた化合物を糖などのより還元された化合物に還元するのに使われます。
このように、光は光合成の光化学反応系で還元力の強い電子の生成に使われますが、この全反応過程において、エネルギー変換効率は100%ではないので、利用されなかった部分は熱エネルギーとなって、環境中に放出されます。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-06-13
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