質問者:
会社員
ぴよみ
登録番号5099
登録日:2021-06-02
木本植物の種子の発芽促進について調べており、Q&Aをとても参考にさせていただいております。特に、植物ホルモン処理での効果に興味があり、登録番号みんなのひろば
硬実種子の発芽促進について
1440や0653のQ&Aを拝見して自分なりに文献も調べ、発芽におけるジベレリンの作用は納得できました。エチレンやサイトカイニンも効果があるという文献もありましたが、これらは種子にどのような影響を与えて発芽を促すのでしょうか。
ぴよみ さん
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物ホルモンの作用(生理的効果)は単一ではありません。現在、植物ホルモンとされている物質にはそれらの「発見の端緒となった生理作用」が「主な(中心的な)作用」を調節するものと一般には言われていますが、実際は複数の作用効果を調節していることが普通です。例えばオーキシン、ジベレリンはご存じの様に茎の身長生長を促進する、サイトカイニンは細胞分裂を促進する、アブシシン酸は休眠を調節する植物ホルモンであると言われていますが、どれもこれら以外の生理現象を調節していることが判っています。さらに、植物ホルモン同士には「相互作用」が知られ2種類あるいは3種類の植物ホルモンが共存(植物細胞内ではごくふつうに起こるものです)すると、共存する植物ホルモンの量的バランスによって細胞分裂が強く促進されたり、細胞分化が促進されたりと言った関係があります。種子発芽においてジベレリンは促進的、アブシシン酸は抑制的で共存すると両者の量比によって発芽したり発芽しなかったりします。例えば、1つの植物ホルモンが他の植物ホルモンの生合成に影響している場合などに相互作用があると生理的には観察されるものです。
さて、ご質問の種子発芽に対するサイトカイニン、エチレンはどんな仕組みでおきているかと言う問題ですが、確かにこれらの植物ホルモンがいろいろな種子や腋芽の発芽に影響を与えるとの報告がありますが、どれも生理的レベルの観察結果の報告で、残念ながらジベレリンのオオムギ、イネ種子の場合のように生化学的にどの組織で、どんな生化学反応がおきているかと言った解析には至っていません。茎の先端(茎頂先端)があるとき、その下位にある葉の基部にある腋芽は発芽しません(頂芽優勢)。しかし、茎頂先端を切除すると下位の腋芽が発芽を開始します(枝がでます)。表面的には、茎頂先端を切除しなくても腋芽にサイトカイニンを与えると発芽が始まるのでサイトカイニンは腋芽発芽を促進すると言えます。実際は、生長先端からオーキシンが極性輸送で下方に流れていて、これが下位の節(葉が付いている)の茎内のサイトカイニン合成を抑制している結果だと判りました。茎頂先端を切除するとオーキシンの流れがなくなり局所濃度が低下するのでサイトカイニン合成が始まり、その結果として腋芽が発芽することになります(登録番号2465)。しかし、この局所的に増加したサイトカイニンがそれまで生長を止めていた腋芽の生長を統合された器官分化へ導く仕組みはまだまだ判っていません。
エチレンが種子発芽を促進する例はオナモミ種子を用いていくつかの報告がありますが、要約すると休眠していない種子と休眠している種子とではエチレン生成量が違い、休眠していない種子はより多くのエチレンを生成するので発芽の前提となる休眠打破の過程に影響している可能性が指摘されています。その他の植物種については確実かつ明快な観察結果は少ないものです。
オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシシン酸、エチレンなど主要な植物ホルモンの受容体もはっきりし、植物ホルモン受容後の信号伝達経路もかなりの段階まで分子生物学的にはっきりされていますが、最終的に生化学反応、生理的反応の調節と関連遺伝子作用との関係については今度の研究に残されています。
このQ&Aコーナーで「休眠」、「発芽」、「植物ホルモン」などを検索語とする項目がかなりたくさんありますのでご参照下さい。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物ホルモンの作用(生理的効果)は単一ではありません。現在、植物ホルモンとされている物質にはそれらの「発見の端緒となった生理作用」が「主な(中心的な)作用」を調節するものと一般には言われていますが、実際は複数の作用効果を調節していることが普通です。例えばオーキシン、ジベレリンはご存じの様に茎の身長生長を促進する、サイトカイニンは細胞分裂を促進する、アブシシン酸は休眠を調節する植物ホルモンであると言われていますが、どれもこれら以外の生理現象を調節していることが判っています。さらに、植物ホルモン同士には「相互作用」が知られ2種類あるいは3種類の植物ホルモンが共存(植物細胞内ではごくふつうに起こるものです)すると、共存する植物ホルモンの量的バランスによって細胞分裂が強く促進されたり、細胞分化が促進されたりと言った関係があります。種子発芽においてジベレリンは促進的、アブシシン酸は抑制的で共存すると両者の量比によって発芽したり発芽しなかったりします。例えば、1つの植物ホルモンが他の植物ホルモンの生合成に影響している場合などに相互作用があると生理的には観察されるものです。
さて、ご質問の種子発芽に対するサイトカイニン、エチレンはどんな仕組みでおきているかと言う問題ですが、確かにこれらの植物ホルモンがいろいろな種子や腋芽の発芽に影響を与えるとの報告がありますが、どれも生理的レベルの観察結果の報告で、残念ながらジベレリンのオオムギ、イネ種子の場合のように生化学的にどの組織で、どんな生化学反応がおきているかと言った解析には至っていません。茎の先端(茎頂先端)があるとき、その下位にある葉の基部にある腋芽は発芽しません(頂芽優勢)。しかし、茎頂先端を切除すると下位の腋芽が発芽を開始します(枝がでます)。表面的には、茎頂先端を切除しなくても腋芽にサイトカイニンを与えると発芽が始まるのでサイトカイニンは腋芽発芽を促進すると言えます。実際は、生長先端からオーキシンが極性輸送で下方に流れていて、これが下位の節(葉が付いている)の茎内のサイトカイニン合成を抑制している結果だと判りました。茎頂先端を切除するとオーキシンの流れがなくなり局所濃度が低下するのでサイトカイニン合成が始まり、その結果として腋芽が発芽することになります(登録番号2465)。しかし、この局所的に増加したサイトカイニンがそれまで生長を止めていた腋芽の生長を統合された器官分化へ導く仕組みはまだまだ判っていません。
エチレンが種子発芽を促進する例はオナモミ種子を用いていくつかの報告がありますが、要約すると休眠していない種子と休眠している種子とではエチレン生成量が違い、休眠していない種子はより多くのエチレンを生成するので発芽の前提となる休眠打破の過程に影響している可能性が指摘されています。その他の植物種については確実かつ明快な観察結果は少ないものです。
オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシシン酸、エチレンなど主要な植物ホルモンの受容体もはっきりし、植物ホルモン受容後の信号伝達経路もかなりの段階まで分子生物学的にはっきりされていますが、最終的に生化学反応、生理的反応の調節と関連遺伝子作用との関係については今度の研究に残されています。
このQ&Aコーナーで「休眠」、「発芽」、「植物ホルモン」などを検索語とする項目がかなりたくさんありますのでご参照下さい。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-06-21