一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ブナの葉にうぶ毛がある理由

質問者:   会社員   Maki
登録番号5102   登録日:2021-06-06
ブナの葉にうぶ毛のような繊維がたくさんついているのはなぜですか?
どこかのサイトには、若葉にはたくさんついていて、成長するとうぶ毛がなくなっていくとありました。
なんのためについていますか?
Maki様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
この毛のような植物体の表面にある構造は毛状突起、毛茸などと呼ばれています。英語名のトライコーム(trichome)も一般的に使われます。トライコームはギリシャ語の τρίχωμα (trichōma) に由来する言葉で、意味は名詞の ’毛’ です。トライコームに関する質問はこれまで本コーナーに沢山寄せられていますので、それらを読んでいただければ十分な回答は得られれますが、簡単にまとめて説明します。なお、本コーナーでは「トライコーム」という言葉で検索してみてください。また、同じ用語でネット上で検索しても沢山のサイトが見られます。
トライコームは葉の葉身の表面だけではなく、葉柄、茎、花、果実など植物体の表面に見られます。トライコームは植物体の表面を覆う表皮組織の細胞が変化して形成されるもので、一個の細胞だけの場合、複数の細胞からできている場合などあり、また形状も様々です。トライコームは大きく分けて2つのタイプに分類されます。一つは非分泌型、もう一つは分泌型です。後者はトライコームの細胞でそれぞれの植物に特有の化学物質が合成蓄積され、害虫などの外敵への忌避物質として、また、送粉者(ポリネーター)などの誘引物質として機能していると言われています。前者の場合は水分の蒸散を防いで乾燥から守ったり、昆虫などの食害から守ったりする働きがあると考えられています。越冬する樹芽などの場合は凍結から守る働きもあります。
お尋ねのブナの葉の場合ですが、新葉が開き始めた時は葉の裏の表皮前面に非分泌型の、まさに産毛のような軟毛が見られます。お尋ねのブナというのは「Fagus crenata Blume」のことだと思いますが、新葉から成葉への展開に伴うトライコームの変化はブナの種によって異なるようです。イヌブナは成葉まで残存しますが、ブナとタケシマブナは成葉では葉脈の上にだけ残って、他は消失するとの事です。ブナでは葉脈上のトライコームはよく見ないと判らないほどになるそうです。御質問の中で、「成長するとうぶ毛がなくなる」と書いてありますが、実際には観察されにくいほど少なくなって葉脈上に残っているのだと思います。ルーペなどで観察してみてください。イヌブナで成葉まで残存している理由はわかりませんが、ブナ、タケシマブナでほとんどなくなっていくのは、トライコームとしての働きが必要なくなったからではないかと思います。ブナだけでなくトライコームが大体若い葉などに多いのは、各種の外的なマイナス要因に弱い若い器官を保護するためだと考えられます。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-06-25
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