質問者:
一般
隣の奥さん
登録番号5114
登録日:2021-06-12
庭の多種類のスミレを観察しながら、みんなのひろば
エライオソームの化学物質
アリの種子散布を楽しんでおります。
そこで、エライオソームの化学物質の成分について詳しく知りたいと思い、質問させて頂きました。
エライオソームにはオレイン酸等の成分が含まれているとの事ですが、それを証明するにはどの様な方法がありますでしょうか?
エライオソームの部分だけカットし、薄層クロマトグラフィーを活用してみると分かるのでしょうか?
アリの死体からオレイン酸が抽出されるとの事で、アリの好む物質と関係があるのか興味があります。
まずはエライオソームの成分を確かめたいので、
一主婦にでも出来そうな確認方法がありましたらご伝授頂けたらと存じます。
宜しくお願いいたします。
隣の奥さん様
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
植物の中には種子に脂肪に富むエライオソームという脂質に富む物質塊を分泌して表面に付着させ、アリなどこれにひかれて種子を巣に運び、エライオソーム部分を食べた後の種子本体は巣の近くに捨て去る、このようにして種子の生育域の拡大を図っているものがあります。エライオソームについては、本植物Q&Aのページで、「エライオソーム」を検索語として調べ、登録番号1427, 1660が役立つと思います。また、生育域の拡大に脂肪に富む物質を利用する動物と植物との関係については、同様に「脂肪種子」を検索語として調べ、登録番号4293をご覧ください。
エライオソームとアリの共利共栄関係は、生物進化の中で、おそらく世界の多様な地域である程度独立的に起こったであろうと考える説が有力です。したがって、エライオソームの形や成分も多様性に富むと考えられます。質問者が考える、多様な「エライオソームの成分を確かめたい」という問題は、興味ある課題ですが、一般人が手掛けるのは大変困難で、生化学の研究を専門にしている大学の普通の研究室でもある程度の準備と覚悟が必要です。
ご質問の「エライオソームの化学物質の成分について詳しく知りたいと思い、質問させて頂きました」に関しては、I「自身で実験を行って成分について調べたい」とII「詳しい情報をもっと知りたい」の2つが考えられますので、それぞれに分けて、回答します。
I「自身で実験を行って成分について調べたい」
質問で脂質の化学分析について薄層クロマトグラフィー、オレイン酸に言及していることから、質問者は、脂質の生化学実験についてある程度ご存じだと推察されます。さて、ご自身で実験を実施することができるかというと、それはほとんど不可能に近いと思われます。理由:大学をはじめとする教育機関では化学実験等で化学物質を使うことがあり、その中にはヒトの健康や環境にとって有害な化合物も含まれます。わが国では1950年代ごろより化学物質の環境中への配慮に欠けた放出により、ヒト及び生態系に大きな悪影響を与えていることが社会的に認識されるようになりました。1971年には、環境庁(その後、省庁再編により環境省に変更)が設置されました。大学では、化学実験等で出る廃棄物に関しては、当初は、工場に比べれば微量であるということで、希釈して下水や大気中に放出するという方法が広くとられていました。しかし、環境に対する配慮が強く求められるにつれて、1970年の中頃から、多くの大学等では実験系廃液を処理するための施設が設置されるようになりました。規制面でも、現在は、危険化学物質の使用や処理に関しては、環境や健康に対する配慮から規制が次第に強化されており、教育機関であっても、クロロホルムやメタノール等の国が指定している多くの化学物質については、購入、使用、廃棄に至るまでの記録を残し、使用後の廃液等については指定された処理会社に処理を委託し、記録を保存することが求められるようになっています。高校等でもある程度のレベルの管理が求められるので、化学実験を計画するにあたっては十分な準備と注意が必要になります。一般人が家庭で実験をやろうとする場合は、管理と費用負担の面で相当困難な状況にあります。
専門的研究には、熟練した研究者が、分析に必要な量の生物材料を集め、エライオソームの成分物質を分離し、それをガスクロマトグラフや質量分析計などの分析装置で分析するのが一般的ですが、大学等でも、こうした専門の高い実験ができる研究室は限られています。
なお、高校レベルの実験用薬品管理の手続き等については、インターネットで、「高校」、「化学実験」、「薬品管理」をキーワードとして検索すると沢山のサイトがヒットするので、その中からいくつかを選んで読んでみてください。試薬を使う実験には、様々な手続きと配慮が必要あり、そう簡単にはできないことがわかると思います。
II「詳しい情報をもっと知りたい」
A.一般の検索サイト(Yahoo,Google等)を利用して、「エライオソーム」または「Elaiosome」で検索して調べる(無料、現時点で日本語では約23万件、英語では約200万件がヒットする)。
B. 検索サイトGoogle Scholarを利用して、「エライオソーム」および「Elaiosome」で検索して調べる(無料、現時点で日本語では40件、英語では2,900件がヒットする)。
C.大学等の研究機関に属していて専門的情報検索サイト(”Web of Science”、”Scopus”)等が利用できる場合はそれを利用します。ここでは、学術論文、著書等に発表され査読付きのものが収録されているので、この段階である程度専門的なものが選ばれていることになります。また、多くのものは要旨が、中には全文がついているものもあるので、効率よく情報を得ることができますが、閲覧できるのは、プロバイダーとの契約により一般にその研究機関・大学等に所属している者に限られます。研究機関が支払う購読料は年々高騰しており、大きな機関では年間1,000万円を超える場合もあります。高額な費用がかかるなど、入手しにくい論文については文献複写サービスを利用する手もあります。
数多くある情報の中から有益な情報を得るにも、専門的な総合的能力が必要です。ある学説が正しいかどうか判断する裁判所のようなものはないので、その分野の有力なあるいは大勢の科学者がその価値を認めるにつれて、その考えが科学界一般に受け入れられていくことになります。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
植物の中には種子に脂肪に富むエライオソームという脂質に富む物質塊を分泌して表面に付着させ、アリなどこれにひかれて種子を巣に運び、エライオソーム部分を食べた後の種子本体は巣の近くに捨て去る、このようにして種子の生育域の拡大を図っているものがあります。エライオソームについては、本植物Q&Aのページで、「エライオソーム」を検索語として調べ、登録番号1427, 1660が役立つと思います。また、生育域の拡大に脂肪に富む物質を利用する動物と植物との関係については、同様に「脂肪種子」を検索語として調べ、登録番号4293をご覧ください。
エライオソームとアリの共利共栄関係は、生物進化の中で、おそらく世界の多様な地域である程度独立的に起こったであろうと考える説が有力です。したがって、エライオソームの形や成分も多様性に富むと考えられます。質問者が考える、多様な「エライオソームの成分を確かめたい」という問題は、興味ある課題ですが、一般人が手掛けるのは大変困難で、生化学の研究を専門にしている大学の普通の研究室でもある程度の準備と覚悟が必要です。
ご質問の「エライオソームの化学物質の成分について詳しく知りたいと思い、質問させて頂きました」に関しては、I「自身で実験を行って成分について調べたい」とII「詳しい情報をもっと知りたい」の2つが考えられますので、それぞれに分けて、回答します。
I「自身で実験を行って成分について調べたい」
質問で脂質の化学分析について薄層クロマトグラフィー、オレイン酸に言及していることから、質問者は、脂質の生化学実験についてある程度ご存じだと推察されます。さて、ご自身で実験を実施することができるかというと、それはほとんど不可能に近いと思われます。理由:大学をはじめとする教育機関では化学実験等で化学物質を使うことがあり、その中にはヒトの健康や環境にとって有害な化合物も含まれます。わが国では1950年代ごろより化学物質の環境中への配慮に欠けた放出により、ヒト及び生態系に大きな悪影響を与えていることが社会的に認識されるようになりました。1971年には、環境庁(その後、省庁再編により環境省に変更)が設置されました。大学では、化学実験等で出る廃棄物に関しては、当初は、工場に比べれば微量であるということで、希釈して下水や大気中に放出するという方法が広くとられていました。しかし、環境に対する配慮が強く求められるにつれて、1970年の中頃から、多くの大学等では実験系廃液を処理するための施設が設置されるようになりました。規制面でも、現在は、危険化学物質の使用や処理に関しては、環境や健康に対する配慮から規制が次第に強化されており、教育機関であっても、クロロホルムやメタノール等の国が指定している多くの化学物質については、購入、使用、廃棄に至るまでの記録を残し、使用後の廃液等については指定された処理会社に処理を委託し、記録を保存することが求められるようになっています。高校等でもある程度のレベルの管理が求められるので、化学実験を計画するにあたっては十分な準備と注意が必要になります。一般人が家庭で実験をやろうとする場合は、管理と費用負担の面で相当困難な状況にあります。
専門的研究には、熟練した研究者が、分析に必要な量の生物材料を集め、エライオソームの成分物質を分離し、それをガスクロマトグラフや質量分析計などの分析装置で分析するのが一般的ですが、大学等でも、こうした専門の高い実験ができる研究室は限られています。
なお、高校レベルの実験用薬品管理の手続き等については、インターネットで、「高校」、「化学実験」、「薬品管理」をキーワードとして検索すると沢山のサイトがヒットするので、その中からいくつかを選んで読んでみてください。試薬を使う実験には、様々な手続きと配慮が必要あり、そう簡単にはできないことがわかると思います。
II「詳しい情報をもっと知りたい」
A.一般の検索サイト(Yahoo,Google等)を利用して、「エライオソーム」または「Elaiosome」で検索して調べる(無料、現時点で日本語では約23万件、英語では約200万件がヒットする)。
B. 検索サイトGoogle Scholarを利用して、「エライオソーム」および「Elaiosome」で検索して調べる(無料、現時点で日本語では40件、英語では2,900件がヒットする)。
C.大学等の研究機関に属していて専門的情報検索サイト(”Web of Science”、”Scopus”)等が利用できる場合はそれを利用します。ここでは、学術論文、著書等に発表され査読付きのものが収録されているので、この段階である程度専門的なものが選ばれていることになります。また、多くのものは要旨が、中には全文がついているものもあるので、効率よく情報を得ることができますが、閲覧できるのは、プロバイダーとの契約により一般にその研究機関・大学等に所属している者に限られます。研究機関が支払う購読料は年々高騰しており、大きな機関では年間1,000万円を超える場合もあります。高額な費用がかかるなど、入手しにくい論文については文献複写サービスを利用する手もあります。
数多くある情報の中から有益な情報を得るにも、専門的な総合的能力が必要です。ある学説が正しいかどうか判断する裁判所のようなものはないので、その分野の有力なあるいは大勢の科学者がその価値を認めるにつれて、その考えが科学界一般に受け入れられていくことになります。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-07-27