質問者:
教員
タカさん
登録番号5117
登録日:2021-06-14
人工気象条件で玉葱を肥大させる実験を行いました。25℃、約一万ルクス20時間日長で管理したところ蛍光灯区では肥大せず、LED区では肥大しました。みんなのひろば
玉葱の肥大条件について
光源の種類で反応が異なるのでしょうか、それとも波長の違いによるものなのでしょうか?
ご回答宜しくお願い致します。
タカさん様
みんなのひろば 植物Q&Aへようこそ。
質問を歓迎します。
光は植物が生育するためのエネルギー源となり、植物は可視光線をよく利用します。光エネルギーは、クロロフィルとタンパク質が主体となっている光化学反応系によって酸化還元の化学エネルギーに変換されて、植物の生活に利用されます。太陽光の代わりに、人工気象室の白色光のもとで、発芽、成長、開花、結実のライフサイクルを完了できる植物は数多くあります。しかし、植物の中には、発芽、開花、結実、成長、分化等の各段階に応じて、特定の波長の光の照射を必要とするものがあり、その主な光受容体(色素タンパク質)は、赤色光及び遠赤色光に応答するフィトクロム(A)、青色光に応答するクリプトクロム(B)、同様に青色光に応答するホトトロピン(C)です。例えば、レタスなどは発芽に赤色光の照射が必要で、赤色光に続いて遠赤色光色光を照射すると発芽が抑制され、この反応にはフィトクロムが関与しています。(各光受容体については、本Q&Aで、検索語として各光受容体について調べるとたくさんの回答が出てきます。例えば、A:登録番号0218、B:登録番号3943、C:登録番号3691などが特に参考になるでしょう。)
玉ねぎの人工光下での生育に関する報告を調べたところ、50年ほど前の次のようなものが目につきました:光源をいろいろ変えた人工光の下で、玉ねぎを鱗茎部の肥大について調べたところ、白色蛍光灯の下では肥大は進まず、これに近赤色光を追加すると顕著な肥大が起こった。このような応答は、この現象にフィトクロムが関与していることを示唆しています。
この実験の結果は次のように解釈できると思います:玉ねぎは世界の多くの地域で栽培されており、品種も多く、日本には江戸時代に導入されました。玉ねぎに近い野生のノビルやアサツキなどについて考えてみましょう。これらの植物は、春になるといち早く青い葉をのばして光合成により成長する。しかし、盛夏になると他の野草が旺盛に生育するため日陰となり、ノビルやアサツキは光合成に必要な光をそれほど十分には受けることができなくなる。そのような状況下では、ノビルやアサツキは光合成産物を陸上部の成長に回すのをやめ、地下の鱗茎部の肥大に向ける。このようにして、翌春になると鱗茎部にためた有機物を利用していち早く葉を茂らせて活発に光合成をすることができる。赤色光に比べて遠赤色光の割合が高いことは上部を他の植物が覆っていることの信号となり、光の質の受容にはフィトクロムが関係しています。
タカさんは、「蛍光灯区では肥大せず、LED区では肥大しました」と述べていますが、蛍光灯、LEDのそれぞれの光エネルギーのスペクトル分布が重要な意味を持ちます。おそらく、用いた「蛍光灯」の光は遠赤色光の強度が極めて低く、「LED」にはいろいろな波長の光を放出する製品がありますが使ったものの発光スペクトルに遠赤色光がかなり高強度に含まれているのではないかと推察されます。人工光下で玉ねぎの鱗茎部の収量を上げるには、最初は白色光でもLED光でもいいから活発な光合成によって地上部を成長させ、十分成長してから発光スペクトルに遠赤色光強度がある程度以上含まれているものを追加すれば、地下の鱗茎部を肥大させることができると考えられます。LEDの発光スペクトルはメーカーのカタログから調べることができるでしょう。
みんなのひろば 植物Q&Aへようこそ。
質問を歓迎します。
光は植物が生育するためのエネルギー源となり、植物は可視光線をよく利用します。光エネルギーは、クロロフィルとタンパク質が主体となっている光化学反応系によって酸化還元の化学エネルギーに変換されて、植物の生活に利用されます。太陽光の代わりに、人工気象室の白色光のもとで、発芽、成長、開花、結実のライフサイクルを完了できる植物は数多くあります。しかし、植物の中には、発芽、開花、結実、成長、分化等の各段階に応じて、特定の波長の光の照射を必要とするものがあり、その主な光受容体(色素タンパク質)は、赤色光及び遠赤色光に応答するフィトクロム(A)、青色光に応答するクリプトクロム(B)、同様に青色光に応答するホトトロピン(C)です。例えば、レタスなどは発芽に赤色光の照射が必要で、赤色光に続いて遠赤色光色光を照射すると発芽が抑制され、この反応にはフィトクロムが関与しています。(各光受容体については、本Q&Aで、検索語として各光受容体について調べるとたくさんの回答が出てきます。例えば、A:登録番号0218、B:登録番号3943、C:登録番号3691などが特に参考になるでしょう。)
玉ねぎの人工光下での生育に関する報告を調べたところ、50年ほど前の次のようなものが目につきました:光源をいろいろ変えた人工光の下で、玉ねぎを鱗茎部の肥大について調べたところ、白色蛍光灯の下では肥大は進まず、これに近赤色光を追加すると顕著な肥大が起こった。このような応答は、この現象にフィトクロムが関与していることを示唆しています。
この実験の結果は次のように解釈できると思います:玉ねぎは世界の多くの地域で栽培されており、品種も多く、日本には江戸時代に導入されました。玉ねぎに近い野生のノビルやアサツキなどについて考えてみましょう。これらの植物は、春になるといち早く青い葉をのばして光合成により成長する。しかし、盛夏になると他の野草が旺盛に生育するため日陰となり、ノビルやアサツキは光合成に必要な光をそれほど十分には受けることができなくなる。そのような状況下では、ノビルやアサツキは光合成産物を陸上部の成長に回すのをやめ、地下の鱗茎部の肥大に向ける。このようにして、翌春になると鱗茎部にためた有機物を利用していち早く葉を茂らせて活発に光合成をすることができる。赤色光に比べて遠赤色光の割合が高いことは上部を他の植物が覆っていることの信号となり、光の質の受容にはフィトクロムが関係しています。
タカさんは、「蛍光灯区では肥大せず、LED区では肥大しました」と述べていますが、蛍光灯、LEDのそれぞれの光エネルギーのスペクトル分布が重要な意味を持ちます。おそらく、用いた「蛍光灯」の光は遠赤色光の強度が極めて低く、「LED」にはいろいろな波長の光を放出する製品がありますが使ったものの発光スペクトルに遠赤色光がかなり高強度に含まれているのではないかと推察されます。人工光下で玉ねぎの鱗茎部の収量を上げるには、最初は白色光でもLED光でもいいから活発な光合成によって地上部を成長させ、十分成長してから発光スペクトルに遠赤色光強度がある程度以上含まれているものを追加すれば、地下の鱗茎部を肥大させることができると考えられます。LEDの発光スペクトルはメーカーのカタログから調べることができるでしょう。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-07-14