質問者:
高校生
ズンドコ
登録番号5126
登録日:2021-06-19
人間は植物になれるのでしょうか。みんなのひろば
人間は植物になれるのか
私は演劇部です。植物になりたい人間の物語を書きたいと思い、ここに辿りつきました。
植物の定義を調べると「細胞壁を有し、独立栄養で光合成を行うことができる」と書いてありました。
また、血管に藻を入れて、動物も光合成出来るかもしれないという情報を手に入れました。
人間が細胞壁を有し、独立栄養で光合成を行うことができるようになるにはどうすれば良いのでしょうか。また、それを実現させるにはどのような課題がありますか。
ズンドコ様
ご質問ありがとうございます。回答は東京大学大学院 新領域創成科学研究科の松永幸大先生にお願いしました。
【松永先生の回答】
今まさに私たちが取り組んでいる研究プロジェクトについて、質問有難うございます。現在、植物と動物のハイブリッド細胞であるプラニマル細胞の創製プロジェクトを進めています。まず、「血管に藻を入れて、動物も光合成出来るかもしれない。」という情報は、おそらく米国の研究グループの成果のことを指していると推察します。正確には、マウスの血管にシアノバクテリアという光合成を行う細菌を挿入して、心臓に光照射することで、光合成により酸素が供給されて、心疾患が改善したという報告です。これは光合成治療として、研究が開始されています。血管に光合成を行う植物細胞が共生している状態と言えます。
さて、「人間が細胞壁を有し、独立栄養で光合成を行うことができるようになるにはどうすれば良いのでしょうか。」の質問の答えは、生命の進化の歴史に隠されていると思います。動物が藻類を取り込むことによって、植物化した進化現象は「二次共生」と呼ばれています。
この時、必ずしも植物化した細胞に細胞壁は形成されないので、細胞壁を有することと、光合成を行うことは分けて考えることができると思います。動物に細胞壁を形成させる方法は専門ではないので、後者の独立栄養で光合成を行うための問題点に焦点を絞り、返答します。最も大きな障害は、光合成を行う葉緑体が動物細胞には存在しないということです。葉緑体自体が、もともと独立した植物細胞であったので、独自のDNAやタンパク質合成システム、複雑な膜構造を持っています。そのため、葉緑体と細胞間の緊密な連携によって、植物細胞は生命活動を営んでいます。
単純に葉緑体や藻類を人工的に動物細胞にいれて、動物細胞を植物細胞化することは、まだ誰もできていません。まず、動物細胞にとって葉緑体は完全な異物であるので、葉緑体を動物細胞にいれても排除機構が働き、分解されます。また、1個の動物細胞の中に葉緑体を入れることができたとしても、動物細胞が分裂した時に、葉緑体も分裂して分配されなければ、分裂後の宿主細胞は葉緑体を維持できません。さらに、光合成は良いことばかりではなく、生命に必須な物質を破壊する活性酸素も発生するため、植物のような活性酸素処理機構が備わっていないと、動物細胞は光合成を起動した途端に死んでしまう恐れがあります。このように、課題は山積していますが、難しい問題があるからこそ、挑戦する「遣り甲斐」のある研究課題と思って取り組んでいます。演劇の創作のネタとして少しでも参考になれば幸いです。
ご質問ありがとうございます。回答は東京大学大学院 新領域創成科学研究科の松永幸大先生にお願いしました。
【松永先生の回答】
今まさに私たちが取り組んでいる研究プロジェクトについて、質問有難うございます。現在、植物と動物のハイブリッド細胞であるプラニマル細胞の創製プロジェクトを進めています。まず、「血管に藻を入れて、動物も光合成出来るかもしれない。」という情報は、おそらく米国の研究グループの成果のことを指していると推察します。正確には、マウスの血管にシアノバクテリアという光合成を行う細菌を挿入して、心臓に光照射することで、光合成により酸素が供給されて、心疾患が改善したという報告です。これは光合成治療として、研究が開始されています。血管に光合成を行う植物細胞が共生している状態と言えます。
さて、「人間が細胞壁を有し、独立栄養で光合成を行うことができるようになるにはどうすれば良いのでしょうか。」の質問の答えは、生命の進化の歴史に隠されていると思います。動物が藻類を取り込むことによって、植物化した進化現象は「二次共生」と呼ばれています。
この時、必ずしも植物化した細胞に細胞壁は形成されないので、細胞壁を有することと、光合成を行うことは分けて考えることができると思います。動物に細胞壁を形成させる方法は専門ではないので、後者の独立栄養で光合成を行うための問題点に焦点を絞り、返答します。最も大きな障害は、光合成を行う葉緑体が動物細胞には存在しないということです。葉緑体自体が、もともと独立した植物細胞であったので、独自のDNAやタンパク質合成システム、複雑な膜構造を持っています。そのため、葉緑体と細胞間の緊密な連携によって、植物細胞は生命活動を営んでいます。
単純に葉緑体や藻類を人工的に動物細胞にいれて、動物細胞を植物細胞化することは、まだ誰もできていません。まず、動物細胞にとって葉緑体は完全な異物であるので、葉緑体を動物細胞にいれても排除機構が働き、分解されます。また、1個の動物細胞の中に葉緑体を入れることができたとしても、動物細胞が分裂した時に、葉緑体も分裂して分配されなければ、分裂後の宿主細胞は葉緑体を維持できません。さらに、光合成は良いことばかりではなく、生命に必須な物質を破壊する活性酸素も発生するため、植物のような活性酸素処理機構が備わっていないと、動物細胞は光合成を起動した途端に死んでしまう恐れがあります。このように、課題は山積していますが、難しい問題があるからこそ、挑戦する「遣り甲斐」のある研究課題と思って取り組んでいます。演劇の創作のネタとして少しでも参考になれば幸いです。
松永 幸大(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
JSPP広報委員長
相田 光宏
回答日:2021-07-15
相田 光宏
回答日:2021-07-15