一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ムカゴを作る意味

質問者:   一般   yosishun
登録番号5135   登録日:2021-06-26
オニユリはムカゴを作るのに近似種のコオニユリはムカゴを作りません。その違いはどこからくるのですか。そもそもムカゴを作る意味は何なのでしょうか
y o s i s h u n 様

植物Q&A のコーナーを利用下さりありがとうございます。

ユリ属(Lilium)の植物は基本的には2倍体で、オニユリも2倍体の自生植物が対馬や韓国南部で見つかっています。しかし、日本に広く分布するオニユリは3倍体です。種なしスイカが3倍体で、種子を作らないことはよく知られていますが、3倍体のオニユリも種子を作れません。コオニユリのように種子を作れる植物は種子を用いて分布を広げ、生き残っていくことができますが、種子をつくれない3倍体のオニユリは、種子に代わるものとしてむかごを作る能力を獲得したものが分布を広げ、生き残ってきたと考えられます。
むかごには、オニユリのように腋芽の葉が多肉化したもの(珠芽)、ヤマノイモのように茎が多肉化したもの(肉芽)、ムカゴトラノオやノビルのように花がむかご化したものなどいろいろなものありますが、どれも親個体から離れて繁殖体としてはたらきます。遺伝的には親個体と同一(クローン)ですので、親個体が適応してきた環境下でたやすく生育できるという利点があります。一方、遺伝子の多様性に欠けますので、病虫害など環境の変化にすべての個体が一斉に影響をうけてしまうという欠点もあります。種子を作る植物では、交雑の過程で多様な遺伝子組成の個体が形成されます。そのうちのどれかが、環境変化に対応し、長い時間経過の中で生き残る可能性が高くなると考えられています。
植物Q&Aのコーナーで、むかごで検索しますと多くの項目がでてきます。中でも、登録番号2155, 3733, 4089 などが特に参考になると思います。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-07-21