一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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塩生植物(ギョリュウ)

質問者:   高校生   ぺーぱー
登録番号5142   登録日:2021-06-30
学校の課題で探究をしている高校生です。私は塩生植物が地球温暖化抑制にどれほどの効果があるのか調べたいと思っています。出来るだけの植生によって二酸化炭素吸収量がどれだけ変わるのかという内容です。そこで耐寒性の強いギョリュウという種を見つけたのですが、この植物の二酸化炭素吸収量や耐寒性が具体的に分かりません。一般的な高木、落葉広葉樹として計算していいのでしょうか。また、どれくらいの水温や気温、水位まで枯れることが無いのでしょうか。
ぺーぱー 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には東京大学の寺島一郎先生から下記の回答文をいただきました。参考になさってください。

【寺島先生からの回答】
ギョリュウは確かに注目すべき植物です。この植物はナデシコ目ギョリュウ科ギョリュウ属(Tamarix)の、落葉性でそれほど樹高は高くならない灌木です。耐乾性、耐塩性に非常に優れています。中国西部の乾燥地の緑地化の主役です。一方で、耐塩性にすぐれた性質によってアメリカ西部では侵略外来種としてはびこっていて問題となっています。根が深く張るので深い地下水にも到達でき、葉に塩類腺をもっていて体内の過剰な塩類を排出する仕組みを備えています。地下水位の高いときには地下水を直接利用し、地下水位が下がる夏には土壌の水を利用することができるようです。

代表種Tamarix chinensisに食塩水を与えて栽培し葉の光合成を測定した研究では、淡水と海水の中間程度の食塩濃度で光合成速度が最大となり、最大速度は40 µmol CO2 m-2 s-1程度です。これはイネやトウモロコシに匹敵するほどです。ただ、Tamrixの葉は細いので葉面積あたりで表現するのはなかなか難しいかもしれません。

このように、高い光合成活性は示すのですが、落葉樹であり特に寒冷地では生育期間が短いこと、乾燥の厳しい場所で生育するため根が深いので、光合成を稼ぐ光合成器官に比較して呼吸をする非光合成器官が相対的に多いことを考えると、ギョリュウ林の総一次生産速度(=総光合成速度)から呼吸速度を引いた純一次生産は、一般の落葉樹林よりも小さくなるでしょう。正確な純一次生産量のデータは探し出せませんでした。しかし、乾燥重量で表現すると1000 g /m2/year、C重量で表現すると450 g C /m2/year程度が純一次生産の最大値ではないでしょうか。もちろん、乾燥や低温の厳しい地域ではこれよりも小さくなります。

質問にもあるように、この植物の分布がどのような環境条件で決まっているのかは非常に重要な問題です。中国政府が種々の地図(https://www.resdc.cn/Default.aspx)を公開していますので、森林生態系と草原との境界(https://www.resdc.cn/data.aspx?DATAID=122)と気象データ(気温;https://www.resdc.cn/data.aspx?DATAID=228、降水量; <https://www.resdc.cn/data.aspx?DATAID=229> https://www.resdc.cn/data.aspx?DATAID=229 )とを組み合わせて検討してください。回答者は、年平均気温が5−10℃、降水量が400−600 mm程度が、限界だろうと判断しました。年変動の図もありますが、中国の気象条件の変動の大きさは驚きです。
寺島 一郎(東京大学大学院理学研究科生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2021-08-01
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