一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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落葉樹の切り口で年輪がはっきりしていないのは何故?

質問者:   その他   こまくさ
登録番号5157   登録日:2021-07-15
 このところで、コナラの木がカシノナガキクイムシの被害により、伐採されています。
その切り口を見ていると、針葉樹や常緑樹では年輪がはっきりと見られるのに、コナラやクヌギには年輪がはっきりと確認できません。
 これは何故でしょうか。
 針葉樹や常緑樹は春~秋期は成長速度が速く密度が低く、冬期になると成長速度が遅くなり密度が高くなるからなのかなァ~~、 なんて考えたりしています。
 これに対して、落葉樹は冬期は完全に眠りに入って木の成長止まるから、冬期の成長がなく密度の高くなる部分がない、と、いうことなのでしょうか。
 それでも、同じ種のコナラでも個体差によってか、なんとなく年輪の影?  らしきものが見られます。
 他の種の落葉樹につても同じように感じられます。
 この違いにつて教えていただけますでしょか。よろしくお願いします。
こまくさ様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
年輪は、1年の間に成長に適した時期と成長に適しないで一時的に成長を中断する時期(温帯であれば冬、雨季ー乾季のあるところでは乾季)があり、それが毎年繰り返されることによって生じます。季節変動の少ない熱帯気候では、樹木は連続的に成長しますので、ふつう年輪を形成しません。
年輪があらわれるのは、色の濃淡の繰り返しによります。成長が活発な春から夏にかけてつくられる細胞は細胞壁が薄く、細胞の大きさが大きいのに対し、秋から冬にかけて作られる細胞は、細胞壁が厚く、大きさも小さく密になります。したがって、材木の断面を見た場合、春から夏にかけて作られる材〈早材)に比べ、成長が衰える秋から冬に作られる材(晩材)は色合いが濃くみえます。これが毎年繰り返されるわけですから、1年に1本の濃い輪(年輪)として数えることができます。
針葉樹に比べ、広葉樹の場合はもう少し複雑です。広葉樹の材には環孔材と散孔材があります。環孔材では、早材を非常に大きな多数の道管細胞が占めており、晩材ではその細胞の大きさは相対的に非常に小さくなります。散孔材では、早材でも晩材でも道管の大きさや密度にひじょうに大きな差はありません。そのため年輪が見えにくくなっています。それでも細胞壁が厚く、小さな細胞が密になっている層が早材に接しておりますので、注意深く観察すれば。年輪の境界を識別できます。
環孔材を作る樹木としては、トネリコの仲間、ニレの仲間、オークの仲間などが、散孔材をつくる樹木としては、カンバの仲間、カエデの仲間、ブナの仲間、ポプラの仲間、クルミの仲間などが知られています。観察されたコナラとクヌギはブナ科の植物ですので、散孔材をつくります。上記のように、散孔材は年輪が見えにくいが、良く観察すると識別できます。まさに観察された通りです。すばらしい観察力と感心致しました。
なお、環孔材をつくるか、散孔材をつくるかは樹木によって絶対的に決まっているわけではありません。個体によって、あるいは一本の木の部分によって異なることもあります。強いストレスを受けた場合でも変化することもあります。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-08-01