一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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オナモミの短日処理について

質問者:   教員   S
登録番号5161   登録日:2021-07-19
高校で生物の授業を担当しています。
高校生物の教科書には,花芽形成が促進されるのに必要な条件である連続した暗期の長さが「葉で」感知されていることを示す実験として,以下のような記載があります。

【実験】
短日植物であるオナモミをそのまま短日処理したものと,葉を全て除去したオナモミを短日処理したものを比較すると,前者では花芽が形成されるのに対し,後者では花芽が形成されない。このことから,暗期の長さは葉で感知されていることがわかる。

この実験に関して素朴な疑問なのですが,実際の植物を用いてこのような葉を全て除去する実験を行った場合,「葉を除去し正常に光合成ができなかったことにより,花芽形成に必要な養分が供給できなくなったため花芽形成が起こらなかっただけだ」という可能性を完全には否定できないのではないか?と考えました。考えすぎでしょうか?

「葉は除去せずに,葉以外の部分にのみ短日処理を行う」という実験の方がいいのではないでしょうか?
S 様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。

教科書の [実験] に関して、「オナモミの葉を全部除いてしまった場合には、短日処理を行なっても花芽形成がみられないのは、正常な光合成ができなかったために花芽形成に必要な養分の供給ができなくなったためにすぎないのではないか」という考察は適切な疑問で、決して考え過ぎではないと思います。しかし、[実験] に対する考え方についてはいろいろあると思います。その点について考えてみたい思います。
高校の生物の教科書では、どの教科書でも本文(図入りで)で、短日植物の葉を全部除去したものと葉を一枚だけ残したものを短日処理した時には、葉を残したものは花芽を形成するが、葉を全部除去したものは形成しないという実験結果や、2本の枝に分枝させた一方の枝はそのまま長日条件下に、もう一方の枝は葉を全部除いたものと一枚の葉を残して全部除いたものを短日条件下においた場合に、葉を一枚残したものでは長日条件下に置かれた枝にも花芽が形成されるが全部除いた場合は形成されないという実験結果の説明があります。
それら実験結果は、葉が日長を感知する場所であることを示すとともに、花芽が形成されないのは光合成産物が不足しているためではないことを示していると思います。そのことを説明した上で、葉が日長を感知する場所であるということの確認のための実験として行うというのが [実験] に対する考え方の一つです。
次の考え方ですが、逆に実験を実施した後に、これだけの実験から葉で日長を感知していると結論していいかを考察するというものです。
さらに、提案されているように実験方法を変更して行うのも一つの考え方かと思います。「葉は除去せずに葉以外の部分にのみ短日処理を行なう」というのは考えとしては良いと思いますが、具体的にはどのように行なうのでしょうか?技術的に難しいように思いますが・・・。
チャイラヒャンは、葉で日長を感知することによって作られた因子(フロリゲン)が花芽形成に働くという仮説を提唱したソビエト連邦(現ロシア)の科学者ですが、彼の書いた著書の中でオナモミではありませんが、短日植物のキクを用いて、下部の葉は残し、上部の葉を除去することによって、葉と葉がついていない部分(茎頂を含む)で異なる日長処理を行なっています。
思いつくままにいろいろ書きましたが、参考になれば幸いです。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-08-08
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