一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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繁栄の為に虫を利用出来る理由

質問者:   会社員   とり
登録番号5168   登録日:2021-07-27
植物やキノコには知能が無いのに、虫を利用して、種を繁栄させる仕組みがあると思います。
(たとえば、匂いを出して虫を誘き寄せ、花粉や胞子を運んでもらう等)

虫の存在を理解出来ないと、このような仕組みにはならないと思うのですが、何故このような仕組みに進化したのでしょうか?

質問の背景としては、テレビでキヌガサタケの特集で「虫を誘き寄せる為に臭い匂いを出す」と紹介されており、気になったからです。
とり様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。

 他家受粉には主な仕組みとして、風媒と虫媒があります。風媒は風にのった花粉が偶然他の個体に到達する偶然性に委ねられるものです。したがって他家受粉が成立するためには、大量の花粉を放出する必要があり、花粉をつくるのにコストもかかりますし、効率の悪い方法です。それに比べ虫媒は、特定の植物と密接な相互関係をもった昆虫に依存しますので、コストもかからず、効率の良い方法です。虫を利用する仕組みが進化してきたのは、このような理由だろうと思われます。
 実際に植物の進化をたどってみますと、裸子植物の針葉樹は風媒で、たとえば花粉症の原因になるスギやヒノキの例をみるとわかるように大量の花粉を飛散させます。裸子植物でもソテツの仲間の植物で、強い匂いを放ちテントウムシや甲虫をひきつける植物があります。甲虫が初期の虫媒の代表的な昆虫であった可能性が考えられています。さらに被子植物の祖先と考えられる種子シダ植物の花粉は花粉が大きく風媒には向いていないと考えられることから、花粉や胚珠を食物にする昆虫による虫媒が行われていたと考えられています。その後、被子植物の花の構造、密腺の分化、開花時期、開花時刻、食糧の在りかに昆虫を誘導する花色、香りなどに多様化がおこり、それに対応する昆虫の種分化による相互関係から爆発的な種分化が起きたと言われています。
 しかし、植物の送粉システムの進化の道筋は風媒から虫媒への進化という単純なものではありません。風媒は広い地域に低密度で生育する植物には適しませんが、ブナ科のような極相林の優占種やイネ科のような草原の優占種に多く見られます。高密度で生育している場合はむしろ、風媒の方がコストがかからず効率的ということのようです。同様に、科の大半が虫媒であるのに一部の属が風媒であるという例がキンポウゲ科、バラ科、キク科などで知られています。これらの例は虫媒から風媒へ変化したものとみなされています。それぞれの生物群が進化の過程で直面した生態的条件に適応した結果である可能性が高そうです。

 この回答は、「昆虫を誘い寄せる戦略」 川那部浩編、井上 健、湯本貴和編、平凡社(1992) を参考にしています。詳細な解説がありますので、ご覧になって下さい。

 なお、キノコの場合は他家受精の問題ではなく、胞子の分布の問題です。ほとんどのキノコは風を利用して胞子を飛散します。キヌガサタケの例は例外的にタテハチョウ、シデムシ、ナメクジによりますが、それらの生物の誘引に異臭を用います。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-08-20
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