一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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トルコキキョウと色水

質問者:   小学生   みこ
登録番号5177   登録日:2021-08-02
こんにちは。
夏休みの自由研究で白いトルコキキョウを食紅を溶かした色水に入れて、花びらの色が変わるかを観察しています。
かすみ草ではできると聞いたので、トルコキキョウでもできるかなと思って観察することにしました。

3日経って少しスジっぽく色がついたのですが全体的に色はつきません。
このまま観察を続けても花びらの色が全体的に色づく事はないのでしょうか?

白の花びらに色をつける方法はありますか?
みこ さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
切り取ったホウセンカの茎の切り口を、食紅を溶かした色水に挿しておくと赤い色水が茎の中を通って昇っていく様子が観察されますね。それでは、ほかの植物ではどうだろうかといろいろの色水を調べるのは、夏休みの自由研究の定番の1つになっています。白い花に色水を与えて自由に花の色を変えられたら素敵なことのように思いがちですが、実際にはかなり難しい試みです。このコーナーの質問を「色水」で検索すると幾つか参考になる解説がありますが、登録番号3857, 3872は「みこ」さんの質問と直接関係がありますので参照して下さい。ほかの解説も参考になると思います。
植物の茎の中には維管束(いかんそく)と言う、液体の通路が通っており葉と根につながっています。通路には2種類あり、根で吸収した栄養素(肥料分)を含んだ水を上方にある葉に届ける道管と葉の光合成産物(主に糖類など)を根やほかの生長する脇芽などに届ける篩管(しかん)とがあります。茎を鋭い刃物で切るとこれらの管状通路の切り口が現れます。切り口をすぐに水に挿す(あるいは水切りと言って水の中で茎を切る)と水が道管に入り、一方篩管の切り口からは光合成産物を含んだ汁が出てきます。道管に入った水は、茎を切る前にあった道管内の水とつながって葉まで上昇し気孔という孔から蒸発します。そのため、葉に光をあてておくと水がどんどん蒸発するのでその分道管の切り口から吸収され、導管内に水の流れが出来ます。色水に茎の切り口を挿せば色水が葉まで運ばれ、茎や葉に色がつくわけです。
「みこ」さんは花に色をつけたいのですから、色水が花びら(花弁)まで届かなければなりませんね。そのためには花弁で水が蒸発しなければ水の流れが出来ないので花弁に水の蒸発口である気孔がなければなりません(気孔から水が蒸発することを蒸散といいます)。野生の植物90種(双子葉類、単子葉類、合弁花、離弁花を含んでいます)の葉や花弁の気孔の数を数えた研究があります。結果は調べた90種のうち花弁に気孔が観察されたのは23種に過ぎません。さらに花弁にある気孔の数(正確には密度)は葉の1/10から1/20程度と非常に少ないものです。花弁に、少ないけれども気孔があるテッポウユリでも花弁からの蒸散量は葉に比べてやはり1/10くらいとの記載もあります。
花の出来方から見て花弁は葉が変形したものとされており、実際、葉脈と同じように花弁にも維管束がありますから、少ないながらも導管液が流れているはずです。白花のガーベラ(キク科)の切り花を使って面白い結果を出した記載がありました。花茎の先端にある1つの花のように見える部分はたくさんの花の集まりです(頭状花と言います)。花茎を比較的短くつけて白花の頭状花を切り出し、花茎を二股になるように縦に切り、一方を青色の、他方をピンクの色素液に挿しておくと、1つの頭状花の半分が青色に、他の半分がピンクになったという結果です。花弁(合弁の場合は花冠)の気孔の分布は判りませんが道管液が花冠に達したことは間違いありません。
長い説明になってしまいましたが結論です。植物の種類によって花弁に気孔の存在が確認できるものや出来ないもの(恐らく極めて数が少ない)がある。気孔があっても葉の気孔のように蒸散が盛んに起こってはいない。そのため、花茎の切り口から吸収された色水の色素が肉眼で識別できるほど十分に花弁に貯まるかどうか、使う植物の種によって異なる。
白花でも染まるものも染まらないものもあるでしょう。トルコキキョウとは限らず、何種類かの白い花をつかい、花茎を短めにした切り花を色素液に挿し明るいところにおいてみたらどうでしょうか。暗いと気孔が閉じてしまいます。また花弁からの水の蒸発は気孔だけとは限りません。気孔のない部分からもゆっくりと水の蒸発はおきています。はやく染まるもの、なかなか染まらないもの、全く染まらないものなどが出てくると思います。いろいろ試してみて下さい。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-08-19